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東洋経済オンライン

トヨタ外国人副社長が吠えた「上司と戦え!」

冨岡 耕
10/30(日) 06:00

慶応義塾大学・三田キャンパスで、ルロワ副社長は経営論を熱く語った(記者撮影)

「上司と戦え」「模範となれ」「言い訳はするな」――。

トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は、同社初の外国人副社長だ。日本や北米、欧州などの先進国事業を統括する。役員報酬が豊田章男社長の約2倍となる6億9600万円に上ることも話題となった。

そのルロワ氏が、仏自動車大手のルノーからトヨタへ転じた経歴を交えて自らのリーダーシップ論を熱く語った。10月25日、ルロワ氏は慶応義塾大学の三田キャンパスで、500人ほどの大学生や大学関係者を前に講演を行ったのである。題して「The Power of Leadership, Passion and Fighting Spirit―トヨタの挑戦―」だ。

日本自動車工業会が若者に車への関心を高めてほしいという狙いで、大手メーカーの首脳が各大学で行っている「出張授業」の一環だ。

ルノーからトヨタへ引き抜かれる

ルロワ氏はフランス出身。大学卒業後、1982年に仏ルノーへ入社した。生産部門などでエンジニアとして頭角を表し、早い段階で工場長などへ昇進。組合が強い中、数々の困難を乗り越えながら、やがてカルロス・ゴーン氏(現・日産自動車社長)のもとで部門横断的に働くようになる。

「トヨタに入りませんか」。ルノーへ入社して16年が経った1998年、トヨタからヘッドハントの誘いを受ける。だが最初は「結構です」と断った。「カルロス・ゴーン氏と仕事をしていて会社を辞めるつもりはなかった。ゴーン氏の下で、強いリーダーシップがあれば物事は実現できるということを学んだ」。

一方、「トヨタウエイも素晴らしく、学びたい。正直数日間眠ることができなかった」。気持ちは揺れ動いていた。その後トヨタの製造部門のトップから直々にフランス新工場のドラフトを見せてもらう。「あなたのことは数年間フォローしていた。ぜひトヨタに入って下さい」と念を押された。ルロワ氏はそこでトヨタへの転職を決断。「自動車会社が工場を建てる機会はなかなかない。カルロス・ゴーン氏とトヨタ、どちらを取るか。私はトヨタを選んだ。正しい選択だった」。

だが、周囲は猛反対だった。「まったくおかしな判断だ」「日本の会社で働いたら組織(の論理)にやられちゃうよ」「すぐにガラスの天井に当たって上に行けないよ」など散々に言われた。「今でもこのような考えを多くの人が持っているが、私にとって重要なのは何が学べるかということ。だからイエスと言った」。

トヨタ入社後はフランスの工場建設に携わり、赤字続きだった欧州事業の立て直しに奔走。ゴーン流のコストカットはやらないと決め、損失を限定しながら土台を造ることに専念した。

一方で、「役に立たない仕事や付加価値を生まないものは切り捨てた」。数年で利益を出せるようになり、販売台数も増えていった。「(部下から)信用を得る方法はひとつ。よく聞いて確実に深く理解する。そして即座に行動する。さらに、複雑な問題を単純化する。それがボスの役割だ」という。

実績が認められ、2015年にトヨタ初となる外国人副社長に就任した。「日本の経験がない。日本語もしゃべれない」と豊田章男社長に伝えると、社長からは「分かっている。多くのエネルギーを生み出してくれればいい」と言われた。

ルロワ流のリーダーシップ術を披露

500人ほどの学生や大学関係者が集まった

フランスから日本へ。多くの反対を押し切りながら、トヨタへ転職し、副社長まで登り詰めた。そんなルロワ氏は学生たちに対し、リーダーシップに必要なことを紹介した。

「上司を喜ばせることを考えるな。上司と戦ってでも会社として正しいことをすべきだ」

「起業家として行動せよ。自分のおカネだったらどうする?」

「チームの模範となれ。自分ができないことはほかの人に期待するな」

「ファイティングスピリットを維持せよ」

「チームとつながり続けよ。上司と会うのに時間がかかるのはダメだ。私は24時間以内に会うようにしている」

「チームの行動を取れ。問題が起きたときに部下と一緒に問題を解く。自分が率先してやる姿勢を示す」

「コミットメントは必ず守れ。言い訳はするな」

ルロワ氏が身ぶり手ぶりで説明していると、真剣にメモを取る慶大生の姿が見られた。

会場からは多くの質問が飛んだ。「トヨタとホンダの違いは何か」との問いには、「ホンダは尊敬している。比較は避けたい。彼らとは北米で激しい競争を繰り広げている。シビックは大成功だ。ただホンダは欧州で存在感が薄い。今のトヨタは情緒的なデザインを入れている。昔は保守的だった。章男社長は『もっといいクルマを作ろうよ』と言っており、デザインは重要な要素だ」と答えた。

「トヨタのプレミアムブランド「レクサス」が期待ほどではなく、ドイツ車に負けているのではないか」という厳しい質問も飛び出した。

車のコモディティ化は避けなければならない

講演に合わせ、慶大三田キャンパスにはレクサス「LFA」や燃料電池車「MIRAI」を展示

これに対し、ルロワ氏は「(メルセデス・)ベンツ、アウディ、BMWは長い歴史があるが、レクサスは25年しかない。ドイツのビッグ3には対抗しない。彼らとはまったく異なる素晴らしい体験を提供する。昨年は65万台を売った。先月は欧州で3割近く販売が伸びた。まだボリュームは少ないが、顧客はいい意味で驚いてくれている。ドイツの記者もレクサスは悪くないと言い始めた。ドイツ人の”悪くない”は、褒めているのと同じだ」と応じた。

一方、自動車業界では業界内の争いだけでなく、自動運転などの先端技術をめぐって異業種との競争が始まっている。そこでIT企業との戦い方に関する質問も出た。

「自動車のコモディティ化は避けないといけない。自動車メーカーがすべて生き残るかというと、ノー。トヨタはデータマネジメントも自動運転も自社でやる。箱を造るだけの会社にはなりたくない。“つながるクルマ”を考えないといけない。これが将来の心臓部になる」(ルロワ氏)。

「YARIMASHO-YO!(やりましょうよ!)」。最後は豊田社長がトヨタ社内でよく口にする言葉で締めたルロワ氏。講演のタイトル通り、存分に熱弁を振るったが、はたして慶大生にはそのパッションとファイティングスピリットが伝わっただろうか。

(冨岡 耕:東洋経済 記者)

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