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富山県議会と富山市議会の「辞職ドミノ」で問題となった「白紙領収書」をめぐって政治が揺れている。国政では菅義偉官房長官、稲田朋美防衛相が、ほかの国会議員の政治資金パーティーに出席したときに白紙の領収書を受け取り、自らの事務所で金額を記入していたことを認めた。
政治資金規正法を所管する高市早苗総務相が、
「発行側の(領収書)作成方法には規定がない。国会議員は双方の事務所で入出金額が記録されており、事実と異なる記入というのはまず発生しない」
と白紙の領収書を認める発言をしたため、「常識外れ」と批判が集まった。
自民党のある国会議員の事務所に行くと、
「白紙の領収書ですか? そんなもの、山盛りありますよ」
と何枚も見せてくれた。政治資金パーティーを開いたとき会費を払った国会議員に金額を書かずに渡すという。パーティーの会費は、たいてい2万円だ。ならば会場で2万円の領収書を手渡せばいいのだが、そうはいかない「事情」があるという。取材した事務所の関係者は、こう話す。
「規定の2万円を払う先生もいれば、5万円とか10万円を出す幹部クラスもいる。それを聞いて会場で領収書を渡せば『俺のパーティーでは2万円だったのに、あいつのときは10万円かよ』ともめるのは必至。昔は、知り合いの議員のパーティー券をたくさん買って、他に売ってキックバックをとる先生もいた。いつしか、白紙で渡すのが慣例化した」
そんな事情もあって、永田町では、白紙の領収書が当たり前のように飛び交う。自民党のある幹部は、
「ずっとやっているもので、急に野党から目くじら立てられてもね。今の時代、白紙の領収書で、そんな悪いことはできない」
と話した。高市総務相が「問題なし」としたのは、こんな背景があるようだ。
だが、富山県の例を見ると、そんな悠長なことは言っていられない。今年8月、最初に富山市議会で発覚した、政務活動費の架空請求による受領。10月20日現在、富山市議会では12人、富山県議会では3人が辞職に追い込まれた。
最初に「ウソ」がばれたのは、自民会派の中川勇元市議(8月30日辞職)。当選6回で議長経験もある中川氏。自民会派の内部調査で、2011年度から15年度にかけて、不正請求額が690万円余り認められた。
不正請求の多くが、印刷代の白紙の領収書を使った架空請求だった。旧知の印刷会社のA社から白紙の領収書を何冊か入手。そこに金額を勝手に記入していた。A社の白紙の領収書は、ほかの市議や県議も不正に使用していた。A社の社長は、こう話した。
「もう、マスコミがたくさん来てたいへんだ。なんで白紙の領収書かって? ずいぶん前に父親が会社をやっていたときのことだから、よくわかりませんよ」
一方、9月21日に富山市議を辞職した前議長の市田龍一氏は、買っていないプロジェクターなど代金を水増しした事務用品のB社の領収書で政務活動費を不正に受け取っていた。
「ずっと水増しの領収書を書くのは嫌だったが、大事なお客様ですから仕方なかった。口止めされたが、これだけ騒がれて黙っているのはおかしいと思った」
とB社の社長は困惑した表情だ。辞職した自民会派の別の元市議は、こう話した。
「なぜ白紙の領収書かといえば、代々、先輩から教わってきたから。昔はノーチェックだったが、厳しくなった今でも同じことをやっていれば、そりゃばれます。本当にお恥ずかしい。白紙の領収書はいけません、やめましょう」
さて、国会議員は……。(本誌・亀井洋志、大塚淳史、吉﨑洋夫、秦 正理/今西憲之)
※週刊朝日 2016年11月4日号