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オススメアプリをインストールして、通勤時間を利用して英語力を伸ばそうとしたのに結局使っていない。気合いを入れて英語本を大量買いしたのに、結局数週間で飽きてしまった――。新年度を迎え、一念発起して英語の勉強を始めたのに、早くも挫折しかかっている人も少なくないでしょう。
続かないのは、根気や努力が足りないからでしょうか。いいえ、違います。そもそも続きにくい方法を選んでいることが原因なのです。今回は、『3ヶ月で英語耳を作るシャドーイング』の著者である英語学習コーチの谷口恵子さんが、続きやすく、本当に効果が出る英語学習法を紹介します。
せっかく始めたのに途中でやめるたびに、「ああ、また挫折してしまった」と自己嫌悪に陥るかもしれませんが、この「英語学習が続かない症状」は、あなただけのものではありません。NHKの語学講座のテキストは、毎年4月の売り上げが大半を占めるそうです。英語学習を続けることの難しさを物語っていますね。「続かないのは私だけじゃなかった」と安心しましたか?
もうひとつ、安心してください。続かないのは、あなたの根気や努力が足りないからではありません。そもそも、続きにくい方法を選んでしまっていることが原因なのです。つまり、方法を変えれば続けることができるようになります。
英語力を伸ばすには、ある程度の時間がかかりますよね。少なくとも1カ月、普通は3カ月以上、毎日学習を続けることで、ようやく目に見える成果が出てきます。一朝一夕に伸びるものではないからこそ、継続しやすい学習法を選ぶことが重要になります。
そして、英語力の中でも特に続けないと伸びにくいのが、リスニング力。大学入試センター試験にリスニングが導入されたのは2006年ですから、それ以前に大学受験をした方の多くは、リスニングの練習に時間をそれほど費やしていないと思います。
そして、大人になってからリスニング力を鍛えようと思ったら、相当意識的にリスニングに効く学習を続けていく必要があります。目安として、毎日30分ずつリスニングのトレーニングを続けていくと、1カ月経った頃に、「前よりも聞こえる! わかる!」と実感し始めます。でも途中で間をあけてしまうと、リスニング力は伸びないどころか、落ちてしまいます。
では、どのような学習法が続けやすいのでしょうか。英語にかぎりませんが、次のような特徴があると、続けやすくなります。
(1)効果が実感しやすく、達成感を感じやすい
(2)教材が手に入りやすい
(3)いつでもどこでも、ちょっとしたスキマ時間でもできる
たとえば、リスニング力を伸ばしたい人の多くがやっている「英語の音声をひたすら聞く」というのが続きにくいのは、(1)の「効果が実感しやすく、達成感を感じやすい」という条件に当てはまらないからです。ただ聞いていても、リスニング力が伸びているのかどうか、よくわかりません。そして、何をゴールにすればいいかも、わかりづらいですよね。
この3つの「続けやすい」条件を満たし、特にリスニング力を伸ばす方法としてお勧めなのが、「シャドーイング」です。シャドーイングとは、英語の音声を聞いて、そのすぐ後をまねして話していくトレーニング法です。準備段階では英文の文章を見ても構いませんが、最終的なシャドーイングでは、音声だけを聞いて追いかけます。もともとは、通訳者の基礎訓練法として長年使われてきた方法ですが、一般の英語学習者でも、使う教材のレベルを難しすぎないものにすれば、十分使える方法です。
では、シャドーイングはなぜ続きやすいのでしょうか。
まず、初めてシャドーイングをしたときにはまねできない部分がたくさんあっても、だんだん言えるようになる部分が増えて、最終的には全部ができるようになっていきます。そして、当初聞き取れなかった部分が、シャドーイングができるようになったときには聞き取れるようになっている、という変化を感じやすいのです。
次に、音声と英文さえあれば、どんなものも教材として使えます。いきなり英文を見ないでシャドーイングをすることもできますが、それだと、知らない単語や、聞き取れない単語が出てくる可能性があるので、英文を見て、何を言っているかをしっかりつかんでからシャドーイングをするのがお勧めです。
TOEICのスコアを上げたい方は多いと思いますが、もちろんTOEICの問題集も使えます。NHK「ニュースで英会話」や、VOA Learning English、TEDのスピーチなども使えます。また、英語字幕と英語音声のある映画やドラマを使うこともできます。このように、自分の興味・関心、その時々の気分に合わせて、好きなものを使うことができるのがシャドーイングの特徴です。
シャドーイングはいつでもどこでも、ちょっとしたスキマ時間でもできます。密度の濃いトレーニングのため、ただ英語を聞き流すよりも速くリスニング力をアップすることも望めます。ホームで電車を待っているとき、電車に乗っているとき、お風呂に入っているとき、料理をしているとき、寝る前にストレッチや筋トレをしながら……。そんなちょっとしたスキマ時間でもできるのです。
シャドーイングを続けることで得られる効果は、主に次の3つです。
(1)リスニングに欠かせない集中力が身に付く
リスニングをするときには、自分のペースで理解していくのではなく、相手の(音声の)ペースに合わせて理解していかなければなりません。聞き取れなかった場合、1対1の会話でなければ、聞き返すことは難しい場合が多いでしょう。リスニングに必要な集中力というのは、リーディングなどに必要な集中力とは少し種類が違うのです。
音を逃さないように聞くことはもちろん大切なのですが、それだけでなく、聞き逃してしまったり、意味のわからない単語があったりしても、そこで思考停止しないで、そのまま聞き続ける力が必要になります。シャドーイングによって、この「聞き続ける力」を伸ばしていくことができます。
(2)本物の英語の音の特徴に慣れる
まねをしようと思って聞くこと、実際に自分の口でまねをして発音してみることで、英語の音の特徴に慣れていくことができます。これは、英文を見ながら1文ずつまねしていくことでも養えますが、英文を見ないで、音だけを頼りにまねをしていくほうが、より「生の音を聞いてまねする」状況をつくり出すことができます。
また、すぐ後をついてまねすることで、英語のリズムやイントネーションなども、まねをしやすくなります。英語特有のリズムやイントネーションをしっかりと定着させることができるので、聞いたときにも違和感なく英語の音をとらえられるようになります。
(3)自分の発音を改善し、英語の発音が聞き取れるようになる
英文を見てしまうと、自分の思い込んでいる発音で読んでしまうため、間違って覚えている単語の発音などに気づくことができません。しかし、シャドーイングをするときには、音しか頼りにするものがないので、聞いた音をそのまままねするという意識が働きます。そして、自分が思っていた発音と違う発音や、自分が発音しにくい音に出合うと、違和感を感じます。そこが出発点になって、自分の発音をより英語らしい発音に変えていくことができるのです。
これはスピーキングに役立つだけでなく、英語を聞き取りやすくなるというメリットがあります。たとえば、英語の母音で、日本語の「あ」に近い音はいくつかありますが、その使い分けが意識的にできるようになっていくと、聞いたときにも聞き分けることができるようになります。発音改善は、リスニングにもスピーキングにも役立ちますので、仕事で英語を使う人にはシャドーイングはピッタリなのです。
さて、忙しいビジネスパーソンは、通勤時間をいかに活用するかが英語学習成功のカギになります。睡眠時間を削ろうとする前に、まずは通勤時間を使えないか試してみてください。
次の3つのツールを使うと、通勤時間も「シャドーイングタイム」に変えることができます。
(1)マスク
(2)Bluetoothイヤホン
(3)音声再生アプリ
マスクは口を隠すために使います。電車内でのシャドーイングは声を出さずに口だけを動かして行うのがお勧めですが、口が動いているのを見られるのが気になる、という人もいるでしょう。その場合にマスクを使えば、口元も隠せますし、少し音が出てしまっても、周りに気づかれにくくなります。
Bluetoothイヤホンは、特に混雑している電車内で、音声を再生するスマホをバッグの中に入れたまま、イヤホンのコードを気にすることなく音声を聞くのに最適です。小型の片耳イヤホンであれば、イヤホンをしていることも気づかれないほどになります。通勤車内だけでなく、家でも、スマホから少し離れて動きながらシャドーイングをするとき、ストレッチや筋トレをしながらするときなどにも大活躍です。
音声再生アプリは、スピード変更ができ、AB間再生ができるものを使いましょう。難しすぎる場合にスピードを遅くして聞いたり、特に言いにくい部分をAB間再生でリピートして使うことで、だんだんシャドーイングができる部分を増やしていくことができます。おすすめの音声再生アプリとしては、Audipo(iPhone, Android用ともあり)、mimiCopy(iPhone/iPad用のみ)などがあります。
シャドーイングは、とても地道なトレーニングです。繰り返し、繰り返し、同じ音声を聞いて追いかけて、言えなかったところを集中的に練習して、少しずつ言えるようにしていきます。何十回も、ときには何百回も同じ音声を聞いてまねする練習をしていきます。とてもスマートとは言いがたい方法です。でも、これがリスニング力アップに絶大な効果を発揮するのです。
そして、私が今まで見てきた、日本で働きながら高い英語力を身に付けた人に共通するのは「そこまでやるの?」と言われるほどやっている、ということです。大抵の人は「そこまでやらなくても、いつか英語力は伸びるよね」と思っています。そんな中で「そこまでやる」人だけが実は伸びるのです。
シャドーイングを早く始めれば、効果が出るのも早くなります。私自身、何年も英語学習で放浪した後にシャドーイングに出合い、「もっと早く出合いたかった!」と思いました。「英語学習がどうしても続かない」という人は、シャドーイングを試してみてはどうでしょうか。これが、「続く→効果が出る→楽しい→続く」というサイクルにつながるかもしれません。
(谷口 恵子:英語学習コーチ)