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東洋経済オンライン

もし黒田日銀総裁が再任されなかったら

山崎 元
9/30(金) 06:00

最近の黒田総裁はマスコミにわざと「崩れた顔」の写真を選ばれることが増えた。2013年4月に「一発目のバズーカ」を打ったときは、凛々しい表情だったように見えた(撮影:尾形文繁)

日銀の新政策に川柳をつくってみた

9月21日、日銀が新しい金融政策を発表したが、これに対する評価が難しい。本連載の筆者であるぐっちーさんは「全く意味不明といっていいですね」と怒っておられた。

短くまとめても「長短金利操作付き・量的質的金融緩和」とは、中点を入れると17文字、即ち俳句と同じ長さに及び、そのうち15文字が漢字なのだから、印象からして分かりにくい。

もともと話題が風流ではないし、筆者は単なる駄洒落オヤジなので、日銀の新政策にコメントする川柳を一つ。

「日銀の 苦労打算が(≒黒田さんが)見え隠れ」とでも詠んでみるか。

日銀の「苦労」は、表面的には買い入れ対象となる国債が乏しくなってきたことに見えるが、実質的にはここまで国債を買ってマネタリーベースを増やしても、それが主として日銀当座預金に滞留し、「銀行貸し出しが伸びて市中に実質的なマネーが出回る」という状態にならないことにある。

「打算」としては、銀行には時に日銀OBが銀行に天下ることがあるし、金融システムに不全があってはならないことから、銀行業界の収益に対して「気遣い」があったことに見られる。「長期金利をゼロ近傍に」という操作目標は、その発表以前よりも長期金利を上昇させ、預金からの資金コストがゼロ以下に下げにくい銀行業界に対しては、何はともあれ利鞘の確保から収益の改善につながる。

ほどほどの利鞘がないと銀行貸出が伸びないとも言えるので、この効果を狙ったイールドカーブ・コントロールなのかも知れない。一方、長期金利に連動する社債などの金利低下が十分起こりにくくなる点で、金融緩和の後退だったと評価されるリスクが十分ある。

とはいえ、長期金利(≒10年国債利回り)をゼロとして、量的緩和は物価上昇率が安定的に2%を超えないと撤回しないというインフレ目標の実質的引き上げは、「物価上昇率が2%になるまで、政府はゼロコストで借金できる」ことを中央銀行が約束している訳だから、これは、ずいぶん大胆な政策だという評価も出来る。政府が国債を増やせば、自動的に「ヘリコプター」が飛ぶ仕掛けだ。

「アベ・クロ」の真の関係はいかに?

今回の新政策が黒田東彦日銀総裁の苦心作であることは間違いない。これまで、黒田総裁が、インフレ目標達成のために、それなり以上に努力をしてきたことは認めて良かろう。

しかし、黒田氏が総裁就任時に掲げた「2年で、(消費者物価上昇率が)2%」の目標は達成されていないし、いつ達成されるのかの目処は見えていない。黒田時代以前と比べると、物価は上昇に転じており、雇用は改善しているので、今までの政策に効果が無かった訳ではないと評価することがフェアなのだが、当初の約束が達成できていないことも事実だ。

喩えるなら「2年以内に結婚して君を幸せにすることを約束する」と言っていた男が、相手の女性を少しは幸せにしたものの、外的要因(何だろうか?)に妨害されて、結婚の約束が果たせなかったような状態が、現在の黒田氏の状況だ。

真剣な恋愛であれば、当時は空手形になる可能性があっても「2年以内に結婚する」というくらいのことは言い切らねばならなかっただろうし、今も「必ず結婚できるようにするから」と言い続けるしかない。「嘘つき!」と言われるのは、さぞ辛かろう。

さてこうなると、気の早い話だが、投資家としては、黒田総裁が任期を迎える2018年に一体どのような状況になっていて、次の総裁が誰になるのか(黒田氏の続投も含めて)が気になるようになってきた。

問題は、与党の方針であり、安倍首相の考え方だろう。ここで難しいのは、安倍首相が黒田総裁をホンネではどう評価しているのかだ。

ホンネはともかく、当面は、黒田日銀総裁を信頼しているという態度を取らざるを得まい。今の段階で、黒田解任や交代を少しでも臭わせると、「不測の円高」といったありがたくない事態を引き起こしかねない。

一方、これまでの経緯を振り返ると、当初順調に推移すると思われたアベノミクスが大きく失速した原因は、2014年の消費税率引き上げだったが、これを決定する時、黒田総裁は消費税率引き上げに対して明確に前向きだった。

この判断を今評価すると、「黒田さんは甘かったし、それは財務省出身だったからではないのか」ということになるのだが、安倍首相の側から見ると、「財務省出身の黒田に騙された」という感覚を持った可能性がある。

黒田再任の可能性は高くないが、「一芝居後」なら有り?

気の早い話だが、私見では、黒田氏の後の日銀総裁に黒田氏が再任される可能性があまり大きくないのではないかと思う。さりとて、現段階では、別の適任者がいるとも思えない。

自信を持って言えることは、緊縮財政を指向しやすい財務省出身者だけは日銀総裁に不適格だということだけだ。インフレ目標達成前に、消費税率引き上げを絶対に行わないことが日本の経済にとっては死活的に重要だ。
 とは言っても、民間ビジネスパーソン、或いは学者などに、「日銀総裁」の重みに似合う人材が見当たらないことが悩ましい。

筆者の個人的意見としては、黒田総裁に、「2014年に消費税率を引き上げてもいいと考えた、私(=黒田総裁)の判断は自分の大きな判断ミスだった」と世間に向かって自己批判させた上で、彼を再任するのがいいと思う。

安倍首相が本音でどう思っているのかは分からないが、黒田氏には、金融緩和に対して積極的なイメージがある。目下、彼以上にインフレ目標の実現に対して前向きであることについてリアリティを感じさせる人は少ない。使えるイメージは、有効に使いたい。

間違っても、ネガティブなサプライズを起こすような人事を行わないことが肝要だ。財務省、日銀などの出身者を後任総裁に起用すると、一気に1ドル10円以上の円高が起こりかねない。

最も良い「ヘリコプターの飛ばし方」とは?

日銀の新政策に対する筆者の評価は、「デフレ脱却というゴールに向かうバトンは、金融政策から、財政政策に渡された」というものだ。新政策が有効であるか否かは、財政政策によって決まる。

重要だと思われるのは「長期金利の誘導目標=ゼロ」という日銀のオペレーション目標だ。長期国債の相場(=流通利回り)を固定しようという政策は前代未聞だ。

価格(=利回り)を固定するためには、国債の供給が多ければ日銀はこれを買わなければならないし、国債の供給が少なければ日銀は買い入れ額を減らし、ひいては保有する国債を売らねばならない。

つまり、金融緩和の「量的な」規模を決める主なファクターは、財政赤字の大小になったのである。拡張的な財政政策がそのまま金融緩和の拡大につながり、緊縮財政は金融引き締めを意味する。

政策的には、緊縮財政、特に消費税率の引き上げをはっきり遠ざけることが重要だ。

さらにもう一つ大事なのは、問題なのは「財政収支(の赤字)」であって、「財政支出の規模」ではないことだ。非効率的な財政支出を拡大することは好ましくない。「ヘリコプターの飛ばし方」として、目下最も好ましいのは減税だと申し上げておく。

さて、インフレ目標の達成は不本意な長期戦になってしまったが、今週のメインレースは「電撃の6ハロン!」の異名を持つ「スプリンターズ・ステークス」であり、秋のGⅠシリーズの緒戦だ。

スプリンターズSは、ミッキーアイルから

言うまでもなくスピードの絶対値が重要なレースだ。一番人気は、春のスプリントGⅠ高松宮記念を制したビッグアーサーかも知れないが、6ハロン(1200m)戦での上がり目を買って、高松宮記念2着のミッキーアイルを本命に抜擢したい。同馬は、マイル(1600m)から徐々に距離を縮める珍しい臨戦過程を踏んでいるが、マイルには前向き過ぎる気性が6ハロン戦により合う気がする。

1分6秒台の持ち時計を持つ点からも、ビッグアーサーは対抗以下には落とせない。ミッキーアイルとの勝ち負けは、ごく小さな要因で動きそうだ。

単穴候補の馬は少なくないが、迷った末だが、持ち時計順、そしてGⅠでは格別の鞍上M・デムーロを評価してレッドファルクスを採る。

以下、潜在力のありそうな3歳馬から、ブランボヌール、ソルヴェイグを押さえておきたい。

(山崎 元:経済評論家)

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