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クレジットカードの明細に並ぶ数字たち。それが1か月で385万円に達していたとしたら、あなたはどう反応するだろうか。実業家であり、作家やゲーム配信者としても活動するドーパニンゲン氏の身に起きたのは、10歳の小学5年生による「385万円の無断課金事件」だ。Appleへの返金申請はことごとく却下。絶望的な状況下で、この父が息子に提示した「驚きの条件」とは――。
ことの発端は5月、クレジットカードの明細に身に覚えのない1万円単位の課金が並んでいることにドーパニンゲン氏が気づいたことだった。
履歴を確認すると、自分のアカウントではなく、「ファミリー共有」していた10歳の息子のiPhone端末で、4月17日から5月13日までの短期間に、合計385万円もの額がゲームに課金されていたことが発覚した。
「率直に『あら~』と思いました」と、ドーパニンゲン氏は当時を振り返る。
自身もYouTubeのゲーム配信で月に200万円台を使うこともあるため、一般的な家庭よりは冷静だったというが、その額の膨らみ方は異常だった。
息子は1000円くらいから課金を始め、バレていないと確信したのか、エスカレートしていったそうだ。
「『君はアプリに課金している認識はあったのか?』と息子に聞いたら、ちょっとしどろもどろになっていました。『1日最高どれくらい使った?』との質問に『30万円ちょい』と答えていたけど、実際の1日の最高額は46万8320円です」
なぜ、これほどの高額課金が可能だったのか。背景には、Appleの「ファミリー共有」設定の盲点があった。
ドーパニンゲン氏は、息子専用のiPhoneに年齢などの設定はしていたものの、子どもが購入時に親の許可を求める「承認と購入のリクエスト」はオフになっており、ペアレンタルコントロール(保護者が子どものスマートフォンやタブレットなどの利用を制限・管理できる機能)は無効になっていたという。
同氏は「口頭では課金禁止にしていたし、デフォルトで承認が必要だと思い込んでいた。ITリテラシーが高いつもりでも、端末の買い替え時などに設定を見落とす可能性がある」と語る。
「4月末に一旦クレジットカードが止められました。連絡が来て『App Storeで同じような課金が続いている』と言われたけど、僕自身の課金だと思い、『僕がゲーム課金しているから大丈夫』と言ってセキュリティを解除してしまった」
この「油断」は高くついた。Appleに対し「未成年者が親の承認なく購入した」と返金申請を2度行ったが、返ってきたのは「お客様の購入は返金要件を満たしませんでした。これは最終決定です」という回答だった。
「そもそも子どもの端末の決済がどのようなシステムになっているのか、僕が理解するべきでした。根本的には全責任は僕にあると思っています。ただ、それは僕の場合であって、親世代にとっては理不尽に感じることかもしれません」
親子関係に亀裂が入りかねない事態だが、ドーパニンゲン氏の対応は独特だ。感情的に怒鳴ることはせず、この事件を「385事件」と命名。息子の部屋には「385を忘れるな」という書を貼り出す予定だ。
「今は息子の端末をスクリーンタイムで管理してゲームができないようにしています。息子が『働いて返す』とか言うから『まだ小5で働けないよね。これから中学以降、私立には行かず国立大学に行って学費を圧縮する。それがミッションだ』と返しました」
学費圧縮は現実的に強要するものではなく、勉強する目的を見失いがちな息子に「学力を上げる理由」として今回の負債を利用した、実業家らしい逆転の発想だ。
さらに、社会人になった際に返すための「借用書」の作成も検討している。
「面白いですね。『10歳でこんなにお金使えちゃうんだ、すげえ』と。感心というか、呆れもありますけど『へぇー』って感じですね。現代のソーシャルゲームの仕組みってすごいなと」
ゲーム課金だけでなく、三輪車に1000万円台を投じるなど自身がお金を大胆に使う姿を息子が見てきたという背景についても振り返った。
「僕の悪影響が無いというには無理があると思います。僕の端末で課金音が鳴ると『あ、パパまた課金している!』とか言ってくるので、課金が日常的なことだと錯覚されたかもしれません。正直、50万や100万では、今回息子の課金に気が付かなかったかもしれない」
今回の騒動をSNSで発信したところ、1,300万インプレッションを超える大きな反響を呼んだ。中には「親の管理不足」という厳しい声もあったが、ドーパニンゲン氏は冷静だ。
「今の子どもたちの情報共有レベルやデバイスの使い方は、親の知識を上回る可能性がある。サービス提供側の倫理的安全設計に過度に期待するのをやめるべきです」と、自身の油断を認めつつ、他の親世代へ注意を促す。
「息子が使った金額を労働で得る場合、職業例を出した上で、具体的にどれくらいの時間が必要か説明しました。大人になった時に彼が、この金額を笑い話にできるくらい稼いでおり、同時に自分の子に対しての金銭の取り扱いについて、僕より理性的な運用ができるのであれば乗り越えられたと思えます」
今回の件について、ベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士に話を聞いた。
未成年者が親の同意なく行なった契約は取り消せることがあるが、それはどんな条件の場合か。今回のケースでは、なぜ返金が認められなかったのか。齊田弁護士はこう答える。
「まず、法律について分かりやすく、以下のように整理いただければいいと思います。
原則:未成年者の行為は、親など法定代理人の同意が無い場合、単に権利を得、又は義務を
免れる法律行為を除き、取り消せる(民法5条1項、2項)。
例外:未成年者が、自分は問題なく契約できる法律上の地位にあるなど、取引の相手方を
信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(民法21条)。
未成年者が「詐術」を用いたと言えるかについては、個別具体的な事情を総合考慮した上で、実質的な観点から判断されるものとされています。
なお、未成年者であることを黙秘していた場合でも、他の言動などと相まって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたときには、詐術にあたるとされています(最判昭44.2.13)。
今回のケースでは、どのように決済されたのかが不明なのですが、仮にiPhoneには10歳の息子が使用するとの設定はしていたとしても、以下のように、詐術にあたると相手方から主張されうる行動をしたため、返金が認められなかったのではないかと推察します。
1.決済時の成人確認や親の承諾の有無を問う質問に対し虚偽の回答をした。
2.クレカで支払いがなされた(スマホの決済パスワードやクレジットカード認証を行うことで、実質的な成人確認としている場合もあります)」
同様のトラブルへのアドバイスとして高額請求が発覚した直後、親が法的救済を求めるために最低限すべき行動は何か?
「オンラインゲームの課金は、一般的に、プラットフォームのアカウントを通じて行われます。
まずは、課金をしたアカウントから、プラットフォーム事業者に問い合わせて、返金を申し出てみたほうがいいと思います。そして、プラットフォーム事業者から返金が認められなかった場合、ゲームの提供会社に問い合わせをすることも検討したほうがいいと思います。
実際、反省文など複数の書類提出により返金されたケースもあるようです。
もっとも、当然ですが、相手方もビジネスでやっているため、容易には返金に応じてくれないケースが多いです。
そのため、困ったときには、専門家兼交渉のプロである弁護士やお近くの消費生活センター等(消費者ホットライン188)にご相談いただいた方がいいと思います」
デジタルデータで大金が動く現代、昭和の時代の「万引き」や「カツアゲ」よりも、はるかに容易に、そして巨額の損害が子どもによって引き起こされるリスクがある。ドーパニンゲン氏は、この「385事件」を通して、息子に労働と対価の本質を教え込もうとしている。
PROFILE 齊田 貴士●弁護士。神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。
PROFILE ドーパニンゲン●イラスト、音楽、デザイン、映像などのクリエイター兼経営者として30年。現在は事業投資、作家活動、配信者。オモチャ屋さん準備中。
取材・文/小島ゆう