「愛子さまを次の天皇に」という声が広がる中、しばしば混同されるのが「女性天皇」と「女系天皇」です。言葉は似ていますが、意味は大きく異なります。歴史上の女性天皇の例をたどり、その違いと日本の皇位継承の原則を解説します。(画像:AP/アフロ)「愛子さまを次の天皇に」という声を耳にする機会が増えています。世論調査でも支持は高く、「女性天皇」への関心は年々高まっているように見えます。
しかし、この議論のなかでしばしば混同されている言葉があります。それが「女性天皇」と「女系天皇」です。似ているようで、実は意味はまったく異なります。
本記事では『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(竹田恒泰・著/Gakken)より一部を抜粋・編集し、この2つの違いと、日本の皇位継承を支えてきた原則について解説します。
「女性天皇」と「女系天皇」はまったく別の概念
現在でも、メディアは「愛子さまを次の天皇に」「愛子天皇待望論」「国民に人気の高い愛子さまが最も天皇にふさわしい」などといった報道を繰り返しています。
こうした「女性天皇容認」の背景には、女性天皇と女系天皇の本質的な違いが、いまだに十分理解されていないという現実があります。これは単なる用語の混同にとどまらず、国家の根幹に関わる“原理の誤認”にほかなりません。
ここで、女性天皇と女系天皇の違いについてあらためて確認しておきましょう。
まず、女性天皇とは、性別が女性である天皇を指します。歴史を振り返ると、推古天皇や持統天皇など、8方(10代)の女性天皇が即位した例があります。ここで重要なのは、かつての女性天皇はいずれも男系の存在、すなわち父親が天皇あるいは皇統につながる男系女子であったという事実です。
一方、女系天皇とは、母親が皇室の血筋であっても、父親がそうでない場合、たとえば一般の民間人であるような場合を指します。このような皇位継承が行われた場合、万世一系の皇統は断絶し、もはやそれは新たな王朝の創設に等しいものとなります。
すなわち、女系天皇とは本質的に天皇ではなく、表面上は皇室が続いているように見えても、皇統としての“同一性”は失われてしまうのです。
歴史上の女性天皇は“男系の中継ぎ”だった
歴代の女性天皇の例をみても、即位後、そこから直接皇統が受け継がれたわけではありません。なぜなら、これらの女性天皇はあくまで「男系の中継ぎ」として位置づけられていたからです。
男系とは、父親をたどっていくと必ず神武天皇に行き着くという血筋です。日本の皇統が126代にわたり連綿と続いてきたのは、まさにこの原理に基づいていたからです。
たとえば、持統天皇は天智天皇の娘であり、天武天皇の皇后です。持統天皇の即位は、天武天皇の子である草壁皇子(くさかべのみこ)が早世し、その子(つまり彼女の孫)である軽皇子(かるのみこ/のちの文武天皇)が即位するまでの“つなぎ”としての即位でした。すなわち、男系男子の皇統をつなぐために、やむをえず一時的に女性天皇が即位したのです。
このように、歴代の女性天皇はすべて「男系の子孫」であり、その後に「男系の男子」へ皇位を戻す形で譲位されています。つまり制度として「女系」へ移行したことは一度もなく、男系継承が厳格に守られてきました。
なぜ日本は男系継承を守ってきたのか
では、なぜここまで男系にこだわってきたのか。それは、日本が「権威」と「権力」を明確に分離してきた国だからです。
天皇は「権威」を体現する存在であり、平清盛、織田信長、徳川家康などの時の政権が「権力」を担うことで、天皇の地位は政争に巻き込まれることなく維持されてきました。
一方、他国では「権威」と「権力」が一体化しています。ですから王朝が交代するたびに、その国の国家体制や国名そのものが変わっていくのです。中国、イタリア、フランス——いずれもそうです。
日本だけが、王朝が一度も変わらず続いてきたのは、男系継承という一点を守り抜いてきたからです。これは単なる思想的なこだわりではなく、「王朝の同一性」を保つための知恵であり、この方式でしか世界最古の王朝にはなり得なかったのです。
仮に女性天皇が成立し、その方が民間人や外国人と結婚した場合、その子は歴代天皇の男系の血筋を受け継ぎません。もしもその人物が皇位を継ぐことになったら、これは、これまで一度も破られたことのない皇統の原則に明確に反することになります。
皇統の正統性を支える「血統の原理」
もしこのような変化が起きたら、時間の経過とともに国民の意識にも変化が生じるでしょう。
たとえば、2代、3代と代替わりした際に、「この人はもう皇統とは関係ないのに、なぜ税金を使って皇室を維持しなければならないのか」と疑問を抱く人たちが必ず出てきます。男系継承が途絶えることは、天皇の正統性そのものが失われることを意味します。
実際、女系天皇を成立させて、意図的に皇室を内側から壊そうとしている人たちが存在します。
たとえば東京大学名誉教授の憲法学者・故奥平康弘氏は「女系天皇を実現すれば、万世一系という皇統の理念が崩れ、内側から皇室を侵食することができる」と論文ではっきり述べています。女系天皇の容認は、じつはそのような皇室否定の思想に道を開く危険性があるのです。
それにもかかわらず、多くの日本人はこの問題の本質に気づいていません。
また「女性宮家」の創設も、同様に重大な問題をはらんでいます。
女性宮家とは、女性皇族が結婚後も皇室に残り、宮家の当主となる仕組みですが、これは事実上、女系天皇への道を開くことにつながるでしょう。したがって、女性宮家の創設も絶対に認めるべきではないと私は考えています。
いずれにしても、女系天皇なるものを「時代に合わせて柔軟に」などといった安易な考えで容認してはなりません。それは、日本人が築き上げてきた歴史と伝統を、自らの手で壊す行為にほかならないからです。
この書籍の執筆者:竹田 恒泰 プロフィール
作家、実業家、皇學館大學非常勤講師。1975年、旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫にあたる。慶應義塾大学法学部法律学科卒。専門は憲法学・史学。『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞受賞。2021年に第21回正論新風賞受賞。『天皇の国史』(PHP研究所)、『現代語古事記』『古事記完全講義』『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(以上Gakken)など著書多数。近年は、歴史教科書の執筆・出版、古墳型墓所の設計・販売なども行っている。
(文:竹田 恒泰)