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発見地は、ブラジル南東の都市ベロ・オリゾンテにある人造湖パンプーリャ湖だ。湖やその周辺の地区は、個性的な建築物が立ち並ぶことで知られ、「パンプーリャの近代建築群」としてユネスコの世界遺産にも登録されている。
アメーバに感染するそのウイルスは、ブラジル神話に登場する水の女王イアラにちなみ、「イアラウイルス(ヤラウイルスとも 学名 Yaravirus brasiliensis)」と命名された。
イアラウイルスは超自然の存在でもなんでもないが、神話の水の精に匹敵するくらい謎めいた存在だ。専門家にすらその起源も系統も分からないのである。
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不可解なウイルスが発見されたのは今回が初めてではない。
2年ほど前、今回の研究グループのメンバーでもある研究者が極限水性環境を調査し、ここから「トゥパンウイルス(Tupanvirus)」という新種のウイルスの発見につながったことがある。
このウイルスは、巨大なカプシド(ウイルス粒子を包むタンパク質の外殻)を持つために、「巨大ウイルス」に分類されている。
2年ほど前に発見されたトゥパンウイルス(Tupanvirus)
巨大ウイルスは大きいだけではなく、複雑なゲノムを持つという特徴がある。このためにタンパク質を合成する能力があり、DNAの修復・複製・転写・翻訳に似たことをやってのける。
こうしたことは、以前は生物ではない不活発なウイルスにはできないと思われていたことだ。
新たに発見されたイアラウイルスは80ナノメートルの小さな粒子で構成されており、巨大ウイルスではないようだ。だが、とんでもなくユニークなゲノムを持っている。
新たに発見されたイアラウイルス( 学名 Yaravirus brasiliensis)
ブラジル、ミナス・ジェライス連邦大学をはじめとする研究グループが『bioRxiv』(1月28日投稿)で公開した研究によると、既知のアメーバのウイルスのほとんどには共通する特徴があり、それに基づけば一般的な進化グループに分類できるという。
それとは対照的に「イアラウイルスは大型/巨大粒子と複雑なゲノムによって表現されていないが、それでいてこれまで記載されたことのない遺伝子を大量に保有している」と研究では述べられている。
その遺伝子の9割以上がデータベースに記載のないいわゆる「孤児遺伝子」で、さらに一般的なコドンとは一致しない転移RNAも6種類持つ。
既存のデータベースに登録されているウイルスの遺伝子に、かすかにでも似ているものはたったの6つしかなく、8500以上の公開されているメタゲノムを検索しても、イアラウイルスがどの系統に近いのかすら見当も付かないとのことだ。
新たに発見されたイアラウイルス( 学名 Yaravirus brasiliensis)
現時点ではイアラウイルスの正体は推測するしかない。しかし他とは関連性のないアメーバウイルスの未知のグループである可能性や、小さく進化した巨大ウイルスの遠縁である可能性が示唆されている。
「イアラウイルスの粒子を構成する未知のタンパク質の量は、ウイルス界に存在する可変性を反映したものだ。ここからどれほどの新しいウイルスゲノムが発見されるのか、それはまだまだ分からない。」
References:sciencemagなど/ written by hiroching / edited by parumo