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東洋経済オンライン

公開「痴漢発生駅ランキング」、意外な1位は?

大坂 直樹
2/10(月) 05:15

混雑する電車内では痴漢被害が発生しやすい(写真:amadank/PIXTA)

電車内の痴漢問題は、容易に解決できない問題だ。男性の乗客は「痴漢冤罪」を極度に警戒する。

一方で、2017年に都内で起きた電車内・駅構内の痴漢行為は年間約1200件とみられるが、『男が痴漢になる理由』の著者・斉藤章佳氏によれば、痴漢行為に遭った女性の9割近くが警察に通報・相談をしていないという。ということは、実際の痴漢行為はその10倍近い可能性がある。痴漢冤罪よりも痴漢行為に悩む被害者の人数のほうがはるかに多そうだ。

鉄道会社の側でも女性専用車両の導入、防犯カメラの車内設置といった対策を講じているが、どれも決定打とは言いがたい。

そんな中、痴漢被害を「見える化」する無料のスマホアプリが登場した。その名は「痴漢レーダー」。痴漢行為に遭ったり、見かけたりしたときにポチッと押すだけ。スマホの位置情報機能によって、痴漢が出没した場所の最寄り駅が地図上に表示される。非常にシンプルな仕組みで、なぜもっと早く登場しなかったのかと思うくらいå2だ。

痴漢被害を「見える化」

このアプリはなぜ生まれたのか。痴漢レーダーの開発会社QCCCA(キュカ)でCEOを務める禹(ウ)ナリさんとCPO(最高プロダクト責任者)の片山玲文さんに話を聞いた。

禹さんと片山さんは元ヤフー社員で、「ヤフー知恵袋」の立ち上げ期のコアメンバー。ヤフー知恵袋ではユーザーがわからないことを質問し、それを見たほかのユーザーが回答する。こうしたユーザー同士を結びつけることに禹さんたちはやりがいを感じた。そしてヤフー知恵袋の立ち上げメンバーが中核となり、禹さんがベンチャー企業、キュカを立ち上げた。

キュカで最初に始めたのは、ハラスメントで悩んでいる人のためのコミュニティサイト。昨年春にスタートし、何カ月か続けていくうちに、回答したい人は多いにもかかわらず、悩みを打ち明けられない人が多いという課題が見えてきた。

どうすれば悩みを打ち明けてもらえるかを考えていた頃、痴漢に遭ったら安全ピンで刺して対抗することの是非が昨年5月にネットで論争となった。

「痴漢レーダー」を開発したQCCCA(キュカ)CEOの禹さん(右)とCPOの片山さん(左)(記者撮影)

そこで禹さんたちは痴漢問題に対して「私たちがどうアプローチできるか」を考えた。そして、悩み相談をするのではなく、地図上で印を残すのはどうかという痴漢レーダーのアイデアに行き着いた。

ポチッと押すことで被害場所と被害発生時間が登録されるが、それだけではない。痴漢、つきまとい、ぶつかり、盗撮、露出といった被害状況も登録できる。これらがデータとして蓄積されれば、そのデータを使って鉄道会社や警察も対策を取りやすくなる。

昨年8月にサービスを開始。利用者数はウェブとアプリを合わせて約6万人に達した。「現在はアプリのサービス改善に力を入れており、アプリの利用者は2万人弱」(禹さん)という。

被害情報1位の駅は?

では、どんな駅(被害場所の最寄り駅)で痴漢被害が起きているのだろうか。

2月7日時点のランキング1位は東急田園都市線の駒沢大学駅。多くの路線が乗り入れる新宿駅、池袋駅を上回る。

ランキングは登録回数がそのまま反映される。「あれっ?と思う人もいるかもしれないが、利用者が本当に毎日、被害に遭っているかもしれないし、そこは検証しようがない」(片山さん)。

サービス開始当初は六本木近辺の駅がランキングの上位に入り、「ITリテラシーの高い人がたくさん登録しているのかもしれないな」と思ったこともあったという。

おそらく、登録者数が増えれば増えるほど、ビッグデータとしての精度が高まり、より実態に近づくはずだ。「登録者数100万人が目標」と、禹さんは意気込む。

鉄道会社からもアプリを使った痴漢防止対策が登場した。JR東日本は2月4日、スマホの専用アプリを使って痴漢被害を車掌に通報するシステムを開発し、第1ステップ(2月下旬から3月中旬)、第2ステップ(6月以降)の2回に分けて埼京線の車内で実証実験を行うと発表した。

通報を受けた車掌は、車内放送で乗客に注意喚起を図る。第1ステップでは、試験である旨を伝えた上で車内放送を行う。その内容は、1)「痴漢を見つけた方はお知らせください」という趣旨のマナー放送、2)「車内のお客様より迷惑行為の連絡がありました」という趣旨の迷惑行為を伝える放送、3)「○号車のお客様より、痴漢の通報がありました」という趣旨の痴漢通報があったことを伝える放送の3種類。アンケート調査を行いながら、放送内容の選定を行う。

第2ステップでは、放送内容を1パターンにした上で、最寄り駅の駅員と連携するなど、実証実験の内容はより具体的なものとなる。車内の乗客に痴漢行為に気づいてもらうことで、痴漢行為の抑制を図る狙いだ。

この実証実験がうまくいけば、ほかの鉄道会社も追随する可能性がある。ただ、利用者が自分が利用する鉄道会社ごとにアプリを入れるのは不便だし、ビッグデータとして活用するという観点からもアプリは共通化するほうが効率的に思われる。

乗客の側にもできることがある

「痴漢は被害者と加害者だけに矮小化していい問題ではない」と片山さんは言う。電車内で痴漢が起きても車掌や駅員がすぐに駆け付けることはできないのだから、電車内にいる乗客に痴漢問題に対する意識を高めてほしいというのが禹さんたちの願いだ。

そこで、痴漢レーダーには「痴漢にあった」だけでなく、「痴漢を見た」人が登録する機能も付いている。痴漢を見たという登録は全体の3割程度あるという。さらに、盗撮に関しては被害者本人ではなく第三者からの報告の方が多いという。

痴漢に遭ったときやつきまといに遭ったとき、周りに助けを求めたくてもできない人のために、痴漢レーダーには「偽電話」という機能がある。

痴漢やつきまといに遭ったときにポチッと押すと、実際に電話がかかってきたような着信音やバイブレーションが作動するだけではなく、さらには人の声まで聞こえてくるので、痴漢をひるませることができるのだ。「夜道を歩いている女性が、危険回避のために“お母さん、牛乳買って帰ろうか”といった偽電話をすることがある。これがヒントになった」(片山さん)。

痴漢レーダーには「見守り機能」もある。近くに痴漢被害が発生していることを知らせる機能だ。「この通知が届いたら、ぜひ周囲を見渡してもらいたい」と片山さんは言う。受信者は被害者である確率が高い。「困っていることがありますか」という程度で構わないので声がけすれば、被害者が痴漢被害から逃げられるチャンスが出てくるかもしれない。

痴漢対策を鉄道会社や警察任せにせず、乗客の側でもできることがある。このアプリはそのきっかけになるはずだ。

(大坂 直樹:東洋経済 記者)

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