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新潟発、加湿器で5年連続日本一の会社の正体

多賀一晃
10/8(火) 06:00

 仕事柄、いろいろな家電を目にします。ある時、いろいろな加湿器をチェックしているとき、思わず手が止まりました。そのモデル、設計はごくありきたりのハイブリッドタイプの加湿器で、超高性能というわけではありません。が、作りが良いのです。箪笥でいうと、職人が吟味した桐で作った総桐箪笥とでもいうべきでしょうか? 日本の良き品質がビシッと詰め込まれたモデルでした。

 先日レポートしたVAIOのパソコンの品質(『ソニーから独立した「VAIO」が復活できた本当の理由』)は、コンセプトから求められた高品質。それとは違うのです。この加湿器、品質、特に成型精度がいいのです。

二つの品質

 一口に「品質」と言いますが、大きく2つに分かれます。一つは「設計品質」。こちらはそのコンセプトに合わせた、必要な機能を維持するために必要な品質です。素材、外寸、重さ、他、全部設計で規定されていますので、守らなければ意図した商品にならない品質です。

 もう一つは「製造品質」です。例えば、樹脂を成形した場合、ゆがみ、寸法ズレが生じるときがあります。それを見込んで設計するので、「設計品質」を守れば機能的には問題は発生しません。

 製造品質は、それらのズレをトコトンなくします。想定されたズレどころが、設計値そのものに合わせるということです。要するに精度良くピシッと作るわけです。

 製造品質は「ムダにスゴい」ように思えますが、ちがいます。例をあげます。

 バブル期の自動車が華やかな時代です。新製品の発表時に、広報車が用意されるのですが、そのクルマには特殊なチューナップがされているという話がありました。目が肥えている評論家に満足してもらえないと、いい記事を書いてもらえませんので、いかにもありそうな話です。実際に乗ってみると、市販品と明らかに違う乗り味。その人は広報に「可笑しい」と詰め寄ったそうです。しかし実際は、同じパーツで組み立てられたクルマだったそうです。

 この話のカラクリが「製造精度」。広報が用意したクルマは、設計図通りのパーツのみで組み立てられていたそうです。例えば、四気筒エンジンのピストン。四つのピストンが全く同じ寸法なのと、規定値内ながらちょっと違うのでは、スムーズさが全く異なるのです。このトコトンパーツの精度を上げる方法は、レースなどで用いられる手法です。レースは一点モノで済みますが、量産品はそうは行きません。バラつくのです。同じ製品でも、当たり、外れがあります。

 製造品質は、製品を使ってみて分かる品質で、使い心地に影響を及ぼします。

LXシリーズ

品質が高い理由

 さて、私が感心した加湿器を作っていたダイニチ工業は新潟県にあります。加湿器では5年連続メーカー販売台数・金額シェアNo.1のシェアのメーカーです。No.1シェアと聞いて、私は「日本のユーザーは、お目が高い」と思いましたね。こう言う市場ですから、世界一になった中国のテレビメーカーが、品質底上げのため、日本市場に参入。日本で認められようとしています。

 ダイニチ工業の前身は、新潟の三条市で昭和32年創業した東陽技研工業です。石油コンロ、石油ストーブなどの製造販売をするメーカーです。そして昭和39年、石油バーナー、石油ふろ釜を製造販売するメーカーになり、名前もダイニチ工業となりました。そして途中、新潟市に移転。以降、「ゆっくり」発展してきた中規模メーカーです。

吉井久夫代表取締役社長

 ここがミソで、ダイニチ工業は、国内で「コツコツ」と頑張ってきた会社です。先日行われた新製品発表会で、社長は次のような内容の発言をされました。

 「今のダイニチ工業の主力商品、石油ファンヒーター、加湿器共に、今後総需はジワジワ減るだろう。しかし毎年、地道に商品を磨き上げ対応、ポジションを堅持する。」

 これには驚きました。上場企業、No.1シェアを持っていると言うことは、財政は健全なはずですし、投資も見込めます。このため、シェアがNo.1をとっている間に頑張ると言うのが普通です。いたずらに規模を追わないのは、品質維持の手法ではあるのですが、ちょっと迷うところでもあります。

 しかし、だからこそ、加湿器と暖房機器(家庭用石油ファンヒーターは、量販店、メーカー販売数量でシェアは12年連続No.1)でやってこれたのではとも思いました。商品の魅力の一つが品質であることは間違いありませんが、品質向上は一朝一夕でできるほど簡単ではありません。その品質を支える要因を解析し、一つ一つ積み上げなければならないからです。

 ダイニチ工業の製品は、新しさに満ちたモノではありませんが、コツコツと磨き上げた品質が大きな魅力になっています。

高級家電メーカー「ミーレ」

 「常により良いモノを。」これは世界で唯一「高級」家電メーカーと言われる独ミーレ社の社訓です。グローバルに商品を出し、スゴい健全経営の会社で、今ドイツで最も就職したい会社No.1にも選ばれました。オーソドックスな作りの中に、高機能を入れ込んだ製品は、非常に落ち着いた感じで、家事のサポーターとしては申し分ありません。

 それを支えているのが、長期開発です。工場は発祥の地にありますが、かなりの田舎町です。私も工場見学させて頂きましたが、常に忙しい都会と異なり、時間はゆっくり流れているようです。逆に言うと、集中しやすい環境とも言えます。移民が多いのも、今のドイツの特徴ですが、一つ一つコミュニケーションをとりながら、作業を的確に進めており、人がラインのパーツのように働く量産主義とは一線を画します。少なくとも、秒単位でタクトを争ってはいません。

 そして、品質重視の方針を守るための「ファミリー経営」。と言っても、一家ではなく、創業以来「ミーレ」と「ツィンカン」の二家でやってきています。

 グローバル化すると基本品質が落ちます。ミーレがそうならないのは、顧客対象がヨーロッパの中〜上流階級並みの人たちだからです。当然、その人たちは、目も肥えていますし、イイモノに対し、お金を出し惜しみしません。ミーレのビジネス体勢は、そんな人たちに向けたモノです。優れた品質、上質な使い心地と確実な機能。開発はスローですが、技術はじっくり熟成させます。歩みはスローなわけですが、何年かに一度大きなモデルチェンジをします。顧客の買い替えには十分間に合います。

 しかし、逆に言うと、世界中の人全員がターゲットではないですから、アメリカの某社の様な、驚異的な成功とは無縁です。しかし確実な生き方でもあり、意志を持ってそれを継いでいます。

 ダイニチ工業も似ています。一番大きなポイントは、極端な拡大路線から離れているところです。拡大より継続。それを支える品質、人。グローバル化により、失われつつあるモノがここにあります。

品質のブランド化を

 何年も加湿器、石油ファンヒーターでNo.1シェアのダイニチ工業ですが、まだまだ知名度がないのが現状です。社長はここを死守する考えですが、それには、どうすればイイでしょうか?

 私は「ブランド化」だと思います。「ダイニチ工業品質」のブランド化です。現在は、店頭で何となくモノがよさそうと言うのを、「大間のマグロ」ではありませんが、「ダイニチ工業と言えば高品質」のようにブランド化してしまうのです。

 このためには、商品にももう少し工夫が必要です。さり気なくではなく、品質を目立たせるデザインを取り入れるのです。例えば、継ぎ目などは、万が一を考えて、目立たないところへ回すのが通常ですが、ダイニチ工業の精度なら、真正面に配置しても分からないでしょう。そうやって高品質を徹底的にアピールすることもできます。

 いろいろやって、品質を認識してもらったら、別のカテゴリーへ手を伸ばしても、問題ありません。ダイニチ工業なら、少なくとも「品質は確実」と認めてもらうことができますし、価格が他社より少々高くても買ってくれます。

 この8月に発表された、新型加湿器LXシリーズはかなり良いです。広い部屋用の加湿器なので、全ての人にとは言えませんが、お勧めできます。お勧めポイントは、水が入るトレイにトレイカバーが付いていることです。

 加湿器は水タンクからトレイに水を入れ、そこで水蒸気化させます。気化に使うパーツを固定する必要があります。このためトレイは複雑な形状となり、洗いにくいのです。しかも、一回一回完全に乾かしてから使うのがよいのですが、冬は連続して使いたいモノ。そんな時、トレイカバーを交換すれば、イイわけです。

 加湿器の欠点は、清掃しないとカビが生えてしまうことです。それをなるべく対応してと言うわけです。ちなみにトレイカバーの交換頻度は、1シーズン1回。替えカバーは、3枚で1500円と言いますので、かなりリーズナブルです。

 品質というベースがしっかりしていると、この様な小技設計がとても魅力的に見えます。高品質は一日でならない上に、良貨と同じで失われやすいものです。また、大手家電メーカーは、スタンダードモデルのほとんどは海外生産。グローバル品質です。少量のトップモデルのみ、日本で生産。高品質ですが、あまりにも少量生産なため、かなりの割高です。分からないでもないですが、昔から使ってメーカーを、応援してきたユーザーから見ると裏切られた想いがあるかも知れません。こうなると流動シェアが増える一方です。

 今なお、新潟の地で、高品質を守り続けるダイニチ工業は、よき時代の日本メーカーとしての誠意を見る思いがします。

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