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横浜市のシーサイドラインで無人運転の列車が逆走した事故に不安が高まっている。だが実は、自動運転はすでに全国で導入されている。ブレーキは、かけられない。
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横浜市南部を走る無人運行の新交通システム「シーサイドライン」で1日、前代未聞の逆走事故が発生したことを受け、無人運行を可能にする自動列車運転装置(ATO)への不安が高まっている。
国土交通省は事故直後に全国の新交通システムを運行する事業者に注意喚起したが、ATOは全国の地下鉄などにも導入されており、事故を機にATOへの不安が全国に拡大するおそれもある。ただ、列車の自動運転は、運転士不足が深刻化する中で各鉄道事業者が今後も注力していく分野のため、ATOの利用は不可欠だ。自動運転の導入を着実に進めるためにも、事故原因の究明が待たれる。
「逆走は聞いたことがない。事故原因はまだわからない」
事故発生後に現地で各社の取材に応じた、国交省運輸安全委員会の事故調査官はこう語り、事故の特異性を強調した。
シーサイドラインは横浜市などが出資する第三セクターの「横浜シーサイドライン」が運営。1989年7月の開業当初は、運転士による手動運転だったが、94年4月からはATOによる無人運行が実施されている。人身事故は開業以来一度もなく、沿線住民からは安全な乗り物と認識されていた。
しかし、1日夜にこの「安全神話」は突然、崩れた。始発駅の新杉田駅(横浜市磯子区)に到着した5両編成の列車に、駅のATOが進行方向の切り替えを指示。列車のATOは切り替えを完了したと駅側に返信したにもかかわらず、列車は方向を切り替えずに車止めに衝突するまで約25メートル逆走。14人の重軽傷者を出した。
ATOは非常時のブレーキなどの安全装置を備えているが、逆走した場合に自動停止する仕組みはないという。運営会社の三上章彦社長は本社での記者会見で「逆走は全く想定していなかった」と困惑気味に語った。
石井啓一国土交通相は4日の閣議後の記者会見で「特に折り返し駅での運転の状況を注意するように他の新交通システムの運営事業者に指示したところです」と述べ、原因究明を待たずに対処を進めるよう要請したことを明らかにした。
シーサイドラインは4日から通常よりも本数を絞って、運転士が乗車した上で運行を再開。運輸安全委員会やシーサイドラインのATOのシステムベンダーである日立製作所や運営会社などが事故原因の調査を進めているが、事故原因の究明は長引きそうだ。
6日に会見した運営会社は、列車のATOで断線が見つかり、モーターに進行方向を切り替える駅のATOからの指令が伝わらなかったことで逆走を引き起こした可能性があると明らかにした。ただ、断線の原因や、逆走した場合に自動停止装置が働かなかったシステムの原因など、今後も詳細な調査は続く見通しだ。
シーサイドラインの事故後、「ゆりかもめ」(東京都)など無人運転を行う全国の事業者がホームに係員を置いたり、車両点検を実施したりするなど事故の波紋が広がっている。(ライター・小松武廣)
※AERA 2019年6月17日号より抜粋