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天皇陛下と皇后雅子さまは8月22日、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に参加した各国首脳夫妻らを招き、皇居・宮殿で茶会を開いた。両陛下の長女愛子さまや佳子さまや宮妃の方々ら女性皇族は、和の装いで臨んだ。愛子さまと佳子さまは、おふたりとも「夏振袖」。日本の伝統技術の違いを海外の賓客に披露するとともに、おふたりの個性も伝わるような「染の技法」とは――。
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愛子さまは、ほほ笑みながら首脳夫人と握手を交わすと、スッと右ひざを落とし、身を低くした。やさしいほほ笑みを絶やさないまま、すぐに体勢を戻しあいさつを口にした。
公式行事などの場面で、王族や君主へ敬意を示す伝統的な礼儀作法である「カーテシー」だ。この日、本振袖姿の愛子さまがみせた優雅なカーテシーの映像がニュースで流れると、たちまち話題を集めた。
日本の京都市で京友禅の誂えを専門とする、「京ごふく二十八」を営む原巨樹(はら・なおき)さんが感心したのは、愛子さまと佳子さまの「夏振袖」だという。
いまは振袖を着る機会が成人式や卒業式など冬や早春の時期に限られるためか、振袖といえば裏地のついた「袷(あわせ)」の生地が一般的だ。
夏の薄物が消えたのは、振袖だけではない。たとえば、夏の季節の結婚式でも、婚礼衣装の白無垢(しろむく)や色打掛(いろうちかけ)、引振袖(ひきふりそで)、そして親族が着用する留袖も同じ。
浴衣などカジュアルなものは別として、原さんのように呉服業界にあっても、薄物の和装を目にする機会は確実に減っている。
「もはや夏に袖を通す薄物の振袖を、呉服店の店頭で見かけることは無いと言っても過言ではありません。誂えることでしかご用意は叶わないと思います」
しかし、この宮中茶会で愛子さまそして佳子さまが選ばれたのは、「夏振袖」。それが、呉服屋として非常に嬉しかった、と原さんは振り返る。
着物に矜持を持つ人や暑い時期に格式ある場に臨む機会のある人は、夏に着る薄物をフォーマルとして誂えるのもお勧めだという。
愛子さまがお召しであったのは、皇后雅子さまと同じ「絽(ろ)」で仕立てられた薄物の夏振袖。
「絽」は、江戸時代から盛んに用いられるようになった織物。絽目(ろめ)と呼ばれるすき間を一定の間隔で織り出した夏生地で、通気性がよく涼しい。隣り合う糸を絡ませる「からみ織」の技法が用いられ、訪問着などの模様染めに用いられる。
この日の愛子さまの夏振袖は、柄行もふんわりと優しげだ。黄味がかった薄い水色である藍白(あいじろ)の涼しげな地色に、芙蓉や桔梗、撫子と菊が美しく描かれている。
「おそらく、『濡れ描き友禅』というぼかし染めを用いた京友禅だと思われます。濡らした生地に模様を描く技法で、何度も色を重ねることで、柔らかく深みのある染に仕上がります」
合わせたのは、夏袋帯。夏素材の着物に合わせて、一般的には絽や紗(しゃ)を用いてシャリ感を持たせた帯。愛子さまの帯も、織り方や糸使いで薄さや軽さを出している。
愛子さまの夏袋帯は、振袖に相応しく大柄の蜀江文(しょっこうもん)。ちなみに、蜀江文とは、中国の蜀で織られた文様に由来し、八角と正方形が組み合わされた壮麗な錦の総称だ。
愛子さまと佳子さまは、どちらも水色がかった地色に芙蓉や撫子など花が描かれた「夏振袖」。しかし、染の技法は対照的、と原さんは言う。
愛子さまの振袖は、夏の花を「濡れ描き友禅」とみられる技法で柔らかに表現した着物。
一方、佳子さまの夏振袖に描かれた草花と背景の霞は、輪郭を際立つように明快に染め上げられている。
「こうした霞は、ぼかし染めの技法で淡く表現されることも多い。しかし、江戸友禅で染め上げられた佳子さまの柄行は、シャープな表情に仕上がっています」(原さん)
愛子さまと佳子さまの「夏振袖」は、どちらも淡い水色の地色に夏の花を染め上げた友禅染。
だからこそ、愛子さまは、やわらかく深みのある京友禅染、そして佳子さまは、はっきりとシャープに描かれた江戸友禅。そんな日本の伝統文化である染技法の個性が海外の賓客にも伝わる装いとなった。
宮内庁の公式YouTubeで投稿されたお茶会の映像。そこには、愛子さまと佳子さまが笑顔で顔を見合わせる、心和むワンシーンも映っている。
おふたりの内親王が見せた夏振袖は、日本の伝統技術の個性を広く発信するとともに、それぞれの個性が伝わるような装いだった。
(AERA 編集部・永井貴子)