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雅子さま 堂々たる紅の「皇后旗」をはためかせた瞬間 金糸の「菊」は30万円【ナイチンゲール記章授与式】

永井貴子
8/3(日) 08:30
第50回フローレンス・ナイチンゲール記章授与式の会場に到着した皇后さま=2025年7月31日午後1時45分、東京都港区、JMPA

 7月31日、日本赤十字社名誉総裁の皇后雅子さまは、「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授与式に出席した。この日は、「十六葉八重表菊」が織り込まれた紅色の「皇后旗」が御料車のフロントではためく貴重な機会。天皇や皇族方の存在を周囲に示す「天皇旗」や「皇后旗」をはじめとする皇室の旗章ついて、改めて研究者に話を聞いた。

*   *   *

 皇居の乾門を出発した車列が、午後1時45分、都内の式典会場へと到着した。

 白バイに先導された黒塗りの車のフロントには、金糸で十六葉八重表菊が織り込まれた紅色の「皇后旗」がはためく。このの黒塗りの車は、皇后雅子さまを乗せていることを示す「皇后旗」だ。

 車の窓から手をふる雅子さまの胸には、日本赤十字社の名誉総裁であることを示す紅色の記章が留められ、「皇后旗」の紅色と鮮やかな調和を見せていた。

「実は、この『皇后旗』、なかなか目にするチャンスが少ない貴重な『旗』なのです」

 そう話すのは、日本旗章学協会事務局の西浦和孝さんだ。『日本「地方旗」図鑑』の共著もあり、国内外の旗の種類や背景などを研究し、海外の旗の専門誌『Vexillum』への寄稿なども行っている。

 「皇后旗」が貴重というのは、どのような意味なのか。

第50回フローレンス・ナイチンゲール記章授与式の会場に、皇后雅子さまが乗った車が到着した。車のフロントには金糸で菊花紋章が織り込まれた紅色の「皇后旗」がはためく=2025年7月31日午後1時45分、東京都港区、JMPA

 天皇陛下おひとりもしくは、両陛下そろって御料車で移動する際に掲げられるのは、「天皇旗」。奉迎の機会などで、私たちが目にするのは、こちらの方だ。

 一方、この日、雅子さまの御料車でなびいていた「皇后旗」は、皇后単独での式典への行啓など公的行事へのお出ましの際に、車に掲げられるものだ。

 皇后単独の公務は、もともと限られている。定例のものとしては、春の「全国赤十字大会」や2年に一度、優れた功績のあった世界の看護師らに贈られる「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授与式などで「皇后旗」の出番も限られている。

 

2019年、即位後初めての地方公務となった愛知県で開かれた全国植樹祭の式典会場に車で入る両陛下。御料車のフロントには、紅色の「天皇旗」がはためく=2019年6月2日、愛知県尾張旭市、JMPA

 このレアな「皇后旗」。紅色の生地に十六葉八重表菊というデザインは「天皇旗」と同じだが、すこしだけ違うところがあると話すのは、宮内庁や国立公文書館などの資料を丹念に調査してきた西浦さんだ。 

「ひと目でわかる違いは、皇后旗の形が燕の尾のように三角型に切れ目が入った『燕尾旗』であることです。令和に入って新しく設けられた『上皇后旗』や『皇嗣妃旗』も同じように燕尾形で、女性皇族特有の形状です」(西浦さん)

 皇室の身位を示すものとして用いられている皇室の旗章の歴史は、明治期にさかのぼる。

 帝国憲法発布の1889(明治22)年に「天皇旗」をはじめ、「皇后旗」「皇太子旗」「親王旗」も定められ、いまある紅地や白地に菊花紋章のデザインとなった。

 そして、元号が平成から令和へと移った2019年、「旗」研究者の間では、皇室の旗章がちょっとした話題になったという。

「というのも、大正15(1926)年に摂政旗が新設されて以来、およそ100年ぶりに皇室の旗章が増えました。このとき新しく定められたのが、『上皇旗』と『上皇后旗』、そして『皇嗣旗』と『皇嗣妃旗』でした」(西浦さん)

上皇ご夫妻は武蔵陵墓地を訪れ、4月末の退位を報告する「親謁の儀」に臨んだ。車のフロントには、新調された深紅色の「上皇旗」が掲げられている=2019年6月6日、東京都八王子市の武蔵陵墓地

 上皇さまや上皇后さまは、基本的には公的な行事などへのお出ましが想定されていないため、旗章を用いる機会はさらに限られる。

 初めて「上皇旗」が公の場で用いられたのは、退位した2019年。

 上皇ご夫妻は、退位を報告する「親謁の儀」に臨むために、東京・八王子市にある武蔵陵墓地や京都の孝明、明治両天皇陵へ参拝した際、車のフロントに「上皇旗」が掲げられた。

「上皇旗」と「天皇旗」は、どちらも金糸で十六葉八重表菊が織り込まれた旗。違いは、紅色の「天皇旗」に対して、「上皇旗」の生地は深紅であることだ。

「宮内庁によれば、天皇の色である黄櫨染に対して、上皇が濃い色を用いたという歴史に基づき、紅色の『天皇旗』より濃い深紅の色に決まったということでした」(西浦さん)

2020年11月の立皇嗣の礼を終え、宮殿を後にする秋篠宮さま。車のフロントに掲げられたのは新たに定められた「皇嗣旗」。白地に織り出された十四葉一重裏菊(じゅうよんようひとえうらぎく)を紅色の枠で囲むデザイン=2020年11月8日午後6時、皇居・宮殿の東庭
ドイツから帰国した皇太子さま(現・天皇陛下)を出迎える雅子さまと愛子さま。手前に見えるのが十六葉八重表菊の菊花紋章を白い枠で囲んだ紅色の「皇太子旗」=2011年6月25日、東京・元赤坂の東宮御所、JMPA

 ちなみに、御料車に掲げる「天皇旗」は、縦20センチ、横30センチほどのサイズ。錦の織物だけに、制作費も近年は、1枚およそ30万円程度となかなかの値段。

 一方で、車のボンネットやときには船などにも掲げるため、耐久性との闘いでもあったようだ。

 たとえば、1912(明治45)年9月29日付の朝日新聞に掲載された「皇太子旗新成」という記事では、〈十分に風力に堪へ得(う)べきよう研究を重ねたる〉結果、従来とは異なる皇国織という方法で「皇太子旗」を製織(せいしょく)したとある。

「昭和の時代は、昭和天皇の御料車が高速道路に乗る度に『天皇旗』を外し、一般道路に戻るとまたつけていた聞いたことがあります」(当時の宮内庁職員)

 高速道路上で掲げて走行することによるダメージを受けないように、という配慮だったのかもしれない。

「天皇旗」には、雨用もあるようで、先の西浦さんもこんな思い出がある。

 東日本大震災からしばらく経った時期、当時の天皇、皇后両陛下(現・上皇ご夫妻)が仙台にお見舞いに訪れたことがあった。

「私はこのとき仙台に住んでおり、重厚な『天皇旗』を写真におさめたいと道端で奉迎の列に並んでいました。その日は、天候があまりよくなかったためか、錦織の生地ではなく、化繊製。天皇旗って錦織製だけではないのか、とすこし驚いたことを覚えています」 

「第50回フローレンス・ナイチンゲール記章」授与式の会場に到着し、にこやかにほほ笑む皇后雅子さま=2025年7月31日午後1時45分、東京都港区、JMPA

 皇室の旗章は、天皇や皇族方のお車であることを人びとに示すもの。

「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授賞式となった7月31日は、夏空が広がる快晴。紅色の「皇后旗」がたなびく御料車から優雅に降りた雅子さまは、皇后としての存在感を人びとに示した。

(AERA 編集部・永井貴子)

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