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宮殿行事や園遊会などをのぞけば、宮妃がそろってお出ましになる公務は限られる。7月31日に行われた「フローレンス・ナイチンゲール記章」の授与式も貴重な機会のひとつ。日本赤十字社の名誉総裁である雅子さまと名誉副総裁の妃殿下方が出席。なかでも、和装の達人としてファンも多い常陸宮妃華子さまは、洋装の着こなしも見事と専門家は話す。
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およそ500名が出席したフローレンス・ナイチンゲール記章の授与式。会場である東京プリンスホテルの入り口には赤い絨毯が敷かれ、日本赤十字社の職員、ホテル職員、皇室の警備らがせわしく行き交っていた。
この記章は、特に優れた功績のあった看護師に贈られるもの。今年は、1985年に群馬県の御巣鷹山に日航機が墜落した事故で、看護の責任者としてのべ1000人の看護師を指揮、統率した春山典子さんら3人が受章した。
最初に到着したのは、高円宮妃の久子さま、寛仁親王妃の信子さま、そして13時半前に、常陸宮妃の華子さまを乗せた車が車寄せに到着。
白いハイヒールとバック、やはり白のチュールレース飾りのクローシェ(鐘)帽がひときわ優雅な華子さまは、杖を使いながらゆっくりと車から降りた。
出迎えた関係者、ひとりひとりに会釈をして、すこしお話をされた。
皇后さまをはじめ、妃殿下方は、記章を授与し祝福する立場。装いのなかで最も目を惹くのは、左胸に留まる日赤の名誉総裁、名誉副総裁を表す赤い記章と控えめな装い。
華子さまは、この夏に85歳の誕生日を迎えた。旧陸奥弘前藩主の津軽家出身の華子さまは、若い頃から和装を着こなし、洋装のセンスも抜群。チャーミングな笑顔で、人びとから愛されてきた妃殿下のひとりだ。
この日、淡いキャメルと白のバイカラーのスーツを着こなすたたずまいは、ご年齢を感じさせない。「華子さまは、お洒落の達人」と話すのは、長年パリコレの取材を続けてきたファッション評論家の石原裕子さんだ。
石原さんが注目するのは、洗練されたセンスに加え、機能性も考えたデザインであることだ。まず、パンプスは安定感のある太目のヒールを選びつつも、つま先の切り替え部分には飾り穴の装飾が入った華やかなデザイン。ヒールのかかともスーツと同じ茶色で合わせる隙のなさ。
白のバッグに手袋、繊細なチュールレースの帽子。スーツの袖と裾も加わった白色の効かせ方は、さすがのセンス。
「オープンカフス(袖)とスカートの裾に、適度にスリットを入れることで動きやすさを確保。デザインと機能性をそなえた仕立てです」
秀逸だと感じたのは、ノーカラージャケットの襟だという。カットを深く、そして第一ボタンの位置を下にさげている。真珠のネックレスは襟と重ならずきれいに見える上に、着脱もしやすい。まさに、マダムの品格を備えた装い。
グレーがかったライラック色のスーツがお似合いなのが、寛仁親王妃の信子さま。
共布であつらえた帽子は、チュールレースをふんわりと重ねた優美なたたずまい。
「耳元には、ネックレスよりもやや粒の大きい真珠をお選びです。きちんとした場には、ふさわしい格のジュエリーをというご配慮が伺えます。口紅はパープルがかった色味をお使いで、シックにまとめておられます」(石原さん)
華やか且つ達人級のお洒落といえば、高円宮妃の久子さまだ。ホテルの車寄せには、予定時刻より15分ほど早く到着。公務のスケジュールもびっしりで、皇室一忙しい皇族とも呼ばれる久子さま。この日も、何か用事がおありだったのか、にこやかなほほ笑みを浮かべながら足早にホテルに。報道陣からは、「見逃した」という嘆きも漏れた。
久子さまがお召しの、チュールレースが華やかな白い帽子は、昨年の全国赤十字大会と同じお品。このときはラベンダー色のスーツに、そして今回は白のスーツに合わせ、統一されたコーディネートだ。
スラリと細身の久子さまは、普段からウエストを絞ったデザインをお召し。
「ジャケットに施されたV字型の大胆な刺繍。顔周りには真珠を編み上げたネックレスと大ぶりのマベパールのイヤリング、そしてチュールでおおった卵型のお帽子。ひとつひとつに存在感のある装飾ですから、並みの人ならばトゥーマッチ(too much)。それを、個性で調和させてしまうのが、久子さまの魅力だと思います」
「隙のない模範生の着こなし」と、石原さんが話すのは、秋篠宮妃の紀子さまだ。
この日にお召しだったのは、ドット(水玉)模様を織り出した、オーソドックスなミモレ丈のスーツ。
車寄せに出迎えた関係者に対しては、深々と頭を下げての丁重なあいさつ。
水色のスーツと共布で仕立てた帽子には、同色の花飾りをあしらうが、真珠のイヤリングもネックレスも控え目な大きさだ。
「皇嗣家という難しい立場のためか、装いも所作もできるかぎり他の女性皇族よりも目立たぬよう努めていらっしゃるのが伝わります。地味過ぎず華美過ぎずの絶妙なバランスを保っていらっしゃる」
式典の主役は、ナイチンゲール記章を授与される看護師。しかし、受章者の功績をたたえる皇后さまと妃殿下方の華やかな装いは、受章者へのお祝いの場を、一層輝かせていた。
(AERA 編集部・永井貴子)