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高専生が開発! 壁も登れるロボットハンドの無限大の可能性

南文枝
11/5(日) 11:30
清水俊彦准教授の研究室に所属する学生らが開発した「万能真空吸着グリッパ」。さまざまな物を吸着して持ち上げることができる

 神戸市立工業高等専門学校(神戸市)で、人型ロボットの研究などに取り組む清水俊彦准教授(33)の研究室に所属する学生らが開発した、なんでもつかめて、壁まで登れてしまうロボットハンド「万能真空吸着グリッパ」が注目を集めている。

 ロボットハンドと管でつないだ吸引機のスイッチを入れると、大人の握りこぶしより一回り小さいドーナツ型のハンドから、ゴーッという掃除機のような音がした。2017年9月下旬、清水准教授の研究室。清水准教授が、ロボットハンドをテーブルの上のワインボトルに近づけると、あっという間にくっついた。

 そのままロボットハンドを1メートルほど上に持ち上げても、ボトルはくっついたままで、落ちない。ボトルをテーブルに置いてスイッチを切ると、びんからハンドが離れた。ハンドの表面は、びんの表面の形のままだ。清水准教授が「つかんだものの形状を記憶します。このサイズ(直径約6センチ)で2キロぐらいのものが持てます」と話した。

「万能真空吸着グリッパ」は、ドーナツ型の特殊な吸着パッドと吸引機をつなげて製作した。スポンジの周りをシリコン膜で覆ったパッドには粉が入っており、触るとぶよぶよしている。吸引機を使い、パッド内部の空気を抜いて真空状態にすると、物を吸着したり、持ち上げたりできるようになるのだ。

 パッドは、吸着する物の表面の形状に合わせて自由に変形するため、さまざまな物にくっつけられる。清水准教授によると、ワインボトル以外に、おわんやスイカ、キャベツなどをつかんで持ち上げることが可能だという。表面がデコボコや波型の板、タイルにくっつけることもできる。2014年に原型が完成し、それから研究室の学生の間で引き継がれ、改良を重ねてきた。

 ロッククライミングが趣味の学生が15年、これを応用して開発したのが、2組の吸着パッドと吸引機、バッテリーなどを装備したアシストスーツだ。重さは12キロほど。リュックサックのような装置を背中に担ぎ、手に持った吸着パッドを壁にくっつけて吸引機を動かせば、壁をよじ登ることができる。

 学生にアシストスーツを装着してもらい、吸着パッドを窓ガラスにくっつけてもらった。手元のボタンでスイッチを入れると、吸着パッドはガラスにぴったりとくっつき、どんなに持ち手を引っ張ってもはがれない。だが、吸引をやめるとすぐに外れた。

 17年7月に放送されたテレビ番組では、スポーツクライミング日本代表の大田理裟選手がスーツを装着して、韓国で高さ140メートルの高層ビルの外壁登りに挑戦した。約120メートル登ったところで装置にトラブルが発生し、断念したが、クライミング技術に秀でた人が使えば、“リアルスパイダーマン”にもなれることが証明されたのだ。

 夢のような面白い技術だが、清水准教授は「(アシストスーツは)レスキュー隊員などプロが使うもので、普通の人は危険です」と笑う。確かにそうだ。それでは、他にどのようなことに役立てられるのだろうか。

「もともとは、橋りょうや倒壊したビルなど危険な場所での検査に活用できないかと開発しました。カメラを付けたドローンや壁面移動ロボットと組み合わせれば、人間が入りにくい場所でも、壁や天井に吸着させて調査することが可能です」(清水准教授)

 吸着パッドの大きさや持てる重さを工夫すれば、コンビニのバックヤードなどの倉庫作業にも活用できる。「24時間動かせるようにすれば、物流現場で活躍できます」と清水准教授。車いすに取り付ければ、座った状態で落ちたものを拾うことも可能だ。将来的には、救助ロボットや被害調査ロボットなど、災害現場での活用も視野に入れて研究を続けている。

 韓国での挑戦にも同行した専攻科(機械システム工学専攻)2年の男子学生(21)は「試行錯誤を続けて、レスキューや壁面の工事などに応用したい」と話す。清水准教授も「真空吸着グリッパを含むものづくりで、社会的な問題を解決できれば」と意欲を燃やす。

 研究次第で、いろいろなことに応用できそうな、万能真空吸着グリッパ。リアルスパイダーマンになるのは簡単ではなさそうだが、今後の成果に大いに期待したい。(ライター・南文枝)

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