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プーチンと習近平は「兵器飢餓」で新冷戦の敗者に。半導体不足で武器生産が不可能という前代未聞の事態に陥る=勝又壽良

勝又壽良の経済時評
7/4(月) 17:02

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ロシアの極めて安易な戦略で始まったウクライナ侵攻は、ロシアとロシアを支援する中国の運命すら変えかねない、大きな歴史の転換点をもたらしそうだ。プーチン氏や習近平氏にそういう認識がないとしても、歴史の歯車は確実にその方向へ向かっている。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

世界の民主主義国を敵に回したプーチンと習近平

第二次世界大戦が終わってから77年、欧州で再び戦争が始まった。ロシアのウクライナ侵攻は、超短期間で終結するという戦略の下で行なわれた。現実は、まったく異なった様相になっている。

侵攻で戦死のロシア軍将校が持っていた文書によれば、侵攻開始から12時間以内にウクライナが陥落すると予想していた。ウクライナ国防相が6月17日、CNNインタビューで明らかにしたものだ。

ロシアの極めて安易な戦略で始まったウクライナ侵攻は、ロシアとロシアを支援する中国の運命すら変えかねない、大きな歴史の転換点をもたらしそうだ。プーチン氏や習近平氏にそういう認識がないとしても、歴史の歯車は確実にその方向へ向かっている。

NATO(北大西洋条約機構)は6月30日、今後10年間を決める「新戦略概念」で、ロシアを「脅威」(敵国)と位置づけた。ロシアを支援する中国に対しては、「体制へ挑戦する」国家と警戒信号を上げた。中ロを世界秩序の破壊国とみており、ロシアはもちろん、中国にとっても容易ならざる局面に立たされたことは疑いない。

中ロは、等しく世界の民主主義国を敵に回したのである。

第二次世界大戦後、旧ソ連が崩壊する1991年までの世界経済は、米ソがそれぞれの経済圏を形成して互いに没交渉であった。現在は、その後グローバル化経済によって壁は取り払われた。中ロも、その恩恵に浴して高い経済成長を実現できたのである。

そのグローバル化経済が、これから本格化する「新冷戦」によって幕を閉じようとしている。

「新冷戦」で痛手を受けるのは中国とロシア

中ロと西側諸国にとって、どちらが新冷戦による痛手を多く受けるのか。

西側諸国には経済的厚みと技術の蓄積がある。中ロにはそれがないのだ。ロシアは資源国家でモノカルチャー経済である。資源を売って耐久消費財を買う経済だ。中国は、西側諸国の借り物技術と人口世界一という市場規模だけである。西側の新技術導入がなければ、せっかくの労働力も宝の持腐れになる。

中ロは、NATOの「新戦略概念」で大きなリスクに直面する。これまでグローバル化経済で潤ってきただけに、その打撃が大きいのだ。

中ロに厳戒体制敷く

NATOの「新戦略概念」の重要部分だけを要約する。

1. ロシアは同盟国の安全保障や欧州・大西洋地域の平和と安定に対する最大かつ直接の脅威。ロシアは強制や破壊活動、侵略、併合を通じて(周辺地域で)直接的支配を確立しようとしている。

2. 中国はわれわれの利益、安全保障、価値に挑み、法に基づく国際秩序を壊そうと努めている。中国とロシアの戦略的協力関係の深化は、われわれの価値と利益に反する。中国と建設的な関係を築くための扉は開かれている。われわれは、中国が欧米の安全保障に突き付ける体制上の挑戦に対応し、同盟国の防衛と安全を保障するNATOの能力を確保すべく、責任を持って取り組む。

前記2項目に若干のコメントを付したい。

(1)ロシアに対して、NATOは妥協の余地がないことを鮮明にした。有事には、6ヶ月以内に50万の兵力を以て対抗することを明らかにした。ポーランドに、米軍司令部を置いてリトアニア三ヶ国の防衛線を守る。

(2)中国に対しては、「準敵国」扱いにしている。中国の対応次第では、NATOが話合いを可能にすると高姿勢だ。中国が、中ロ枢軸の動きを強めれば、NATOは門を閉じると宣言している形である。

NATOが、中国までを巻き込んで警戒範囲を広げた理由は何か。

中国が、一帯一路プロジェクトを利用して世界中へ軍事拠点を作ろうと動いていることだ。中国海軍が、すでに北極圏まで活動範囲にしている点は、ロシア海軍と計らって欧州を攻撃する準備をしていると判断されたのだろう。NATOの先制パンチで、中国海軍は動きを止められる公算が出てきた。

NATOは、中国を警戒国に挙げた以上、太平洋地域の防衛にも関心を寄せている。今回のNATO首脳会議には、日本・韓国・豪州・NZ(ニュージーランド)の首脳を招待した。日本は今後、NATO理事会へ定期的に出席することになった。中国の動静をNATOの政策に反映させるシステムが出来上がったのだ。自衛隊とNATO軍が、それぞれの演習にオブザーバー参加できる枠組みも整えられた。

日本列島を周回し威嚇

中国海軍は最近、ロシア海軍と同一行動を取り日本列島を周回する威圧行動を繰り返している。日本が、怯むとみた浅はかな行動である。

中国は、日清戦争前にも英国から購入した最新鋭艦4隻を長崎まで2度も回航し日本へ圧力を加えた。これに奮起した日本海軍は、日本での建艦による軍艦で対抗。日清海戦は、清国海軍の惨敗に終り、戦場から無断で離脱する戦艦まで現れた。昔も今も、中国海軍は変わらない振る舞いをしているのだ。

中国軍には、相手国を意味もなく挑発する無鉄砲さがある。自らの軍備の大きさに酔った結果である。戦争は、軍備の量だけで勝敗が決まるものでない。戦略が極めて重要である。具体的には、多くの同盟国を持つことだ。同盟国のない国の戦いは、敗北するケースが圧倒的である。日露戦争では、同盟国のないロシア軍が、米英に支援された日本軍に敗北したのだ。

マティス元米国防長官は最近、CNNで興味ある発言をした。「米国には、『同盟国がある国は繁栄し、ない国は衰退する』との格言がある」と言うのだ。これは至言である。日本にもこれに類した言葉がある。戦国武将の毛利元就が、3人の子どもに教えた遺訓である。「1本の矢は容易に折れるが、3本まとめてでは折れにくい」。結束=同盟の力の強さを強調したものだ。

中国は秦の始皇帝以来、「合従連衡」を外交の基本にしている。「合従」(同盟)を嫌い、「連衡」(一対一の関係)に持ち込み、相手国を征服する戦術である。中国は、今なおこの外交戦術に固執している。唯一の例外は、ロシア軍への接近である。ただ中ロ間には、同盟が成立していないので、有事の際にロシア軍の協力する保証はゼロである。現に、ロシアのウクライナ侵攻でも中国は「精神的支援」に止めている以上、その見返りがないのは当然であろう。

こうなると、中国は有事の際にどこにも頼れる国がないことになる。

行き当たりばったりでロシアを支援する習近平

それにも関わらず、台湾への軍事威嚇や尖閣諸島の領海侵犯を繰返すなど、無謀な行為を重ねている。

台湾には、多くの潜在的な軍事支援国の名前が上がっている。尖閣諸島では、米国が日米安全保障条約の適用範囲と警告している。

これに対して、中国はいかなる戦略を持っているのか、まったく脈略のない行き当たりばったりの行動をしているのだ。

結局、中国は確固たる戦略もなく「成り行き」で、今回のロシア支援を表明し、結果的に大きな穴に飛び込んだのである。2月4日の中ロ首脳会談で、中国は「限りないロシアとの友情」を謳い挙げた。ロシアは、この中国の言葉を信じて、20日後にウクライナ侵攻に踏み切ったのだ。

ウクライナ開戦後、中国は経済・軍事の協力をせずに、ただのリップサービスで終わっている。

中国が「兵器飢餓」へ落ち込む危険性

中国は、ウクライナ侵攻でロシアを言葉のうえで支援している状態だ。わずかに、ロシアの原油輸入を増やす程度に止まっている。

それにも関わらず、NATOは中国に対して「中ロ枢軸」と規定し、「民主主義体制への挑戦」と警戒姿勢を強めることになった。中国の迂闊な言動が招いた面が多々あるのだ。

それだけに、中国にとって大きな災難を招いたと言える。習近平氏が国家主席に止まる限りは、この災難から逃れられないであろう。

中国には間もなく、ロシアからの武器供給が滞る新たな災難が加わる。中国は、ロシアからの武器輸入第2位の国である。ロシアは、経済制裁で部品や半導体の輸入を止められている。現状は、これまでの部品在庫があって武器生産を続けられても、在庫が払底すれば武器生産はストップだ。その時期は、夏過ぎと予測されている。

ロシアからの武器輸入第1位のインドは、すでにこういう事情を米国から知らされている。インドは、武器でのロシア依存脱却を目指し、米国、英国、フランス、イスラエルとの間で共同の武器生産に入る準備をしている。5月に日本で開催された「クアッド」(日米豪印)首脳会談で、米印は武器生産の「密約」を交わした。インドが、武器生産の面で「敵国」中国より、はるかに有利な地歩を得たのだ。

中国は、ロシア支援などと言っている間に、皮肉にもインドの後塵を拝する事態が待っている。

中国も、すでに米国から半導体の供給を止められている。ロシアも同じ事態である以上、「中ロ枢軸」は、高級な武器生産が不可能という前代未聞の事態に陥る。ロシア軍は、ウクライナ侵攻で人的面と兵器面で重大な損害を被った。英国では、この回復に「数年を要する」と観測しているほどだ。こういう緊急事態下で、中国も一緒に「兵器飢餓」へ落ち込む危険性が高まっている。

ロシアの武器供給が滞ると…

米国は、ウクライナに対して気の進まない和平を強いることはないとしている。ウクライナ大統領は、22年一杯に戦争のメドを付けるために、高度の武器供与を求めている。ウクライナ国民の9割が、ロシアへ領土の割譲を許さないと高い士気を維持している。

こうなると、将来の和平条件でウクライナ側が領土面で苦杯をなめさせられれば、その恨みがロシアへの「長期制裁延長」という形でEU(欧州連合)へ向けられることになろう。

となれば、ロシアは長期化する経済制裁によって武器の生産がさらに弱体化する。これに合わせて、ロシアからの武器輸入国である中国も大きな影響を被ることは不可避であろう。

中国は、こうしてロシアとの関係強化が自国の軍事的弱点を招くことになる。

中国だけではない。新興国でロシアへ接近している国の大半が、ロシアから武器を輸入している関係にある。国連特別会合で、ウクライナ侵攻を巡ってロシア非難提案がされた。反対票の多くは、ロシアから武器輸入停止の脅しを掛けられていた。

ロシアの武器生産が長期停滞になれば、これら新興国は武器輸入先を西側諸国へ切り変えざるを得ないだろう。こういう、生々しい話はなかなか浮上しないが、中ロにとっては武器生産問題が大きくのし掛っている。

経済制裁は、中ロの首根っこを押さえかねない問題になるはずだ。

MONEY VOICE

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