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「新しい戦前」と続く政治家への襲撃事件 100年前と現代の共通点とは

野村昌二
5/19(金) 07:30
1930(昭和5)年、時の浜口雄幸首相が東京駅で右翼青年に銃撃され、翌年死亡した。昭和初期は、政治家が標的となる事件が相次いだ

 昨年7月、安倍晋三元首相銃撃事件、今年4月15日には岸田文雄首相襲撃が起きた。政治家への襲撃事件が相次いでいる。日本は今、「新しい戦前」にあるという。100年前と現代の共通点とは──。AERA 2023年5月22日号から。

【写真】今年4月、岸田首相を襲撃し、取り押さえられ、連れ出される容疑者*  *  *

 100年も前に巻き戻されたかのような光景を、1年のうちに2度も見ることになった。

 4月15日、衆院補選の応援演説で和歌山市を訪れた岸田文雄首相の近くに爆発物が投げ込まれた。首相と約200人の聴衆にけがはなかったが、警官1人が負傷した。昨年7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件から、1年も経っていなかった。

 政治家が標的になる事件は、大正から昭和初期に繰り返されてきた。

 1921(大正10)年11月、東京駅丸の内南口改札近くで、時の原敬(たかし)首相が10代の男に刺殺された。30(昭和5)年11月には、浜口雄幸(おさち)首相が東京駅のホームで右翼の青年に銃撃された。32(昭和7)年2~3月には井上準之助前蔵相らが暗殺された「血盟団事件」、その2カ月後の5月には犬養毅首相が射殺される「5.15事件」、36(昭和11)年には高橋是清蔵相らが殺害された「2.26事件」が起きた。それぞれのテロやクーデターの衝撃は時代の「空気」を変え、その後の日本の歩みに大きな影響を与えた。

「新しい戦前」。

 不穏なこの言葉は、昨年の年の瀬、12月28日に飛び出した。テレビ番組「徹子の部屋」にゲスト出演したタレントのタモリさんが、司会の黒柳徹子さんに「2023年はどんな年になるんでしょう?」と聞かれ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えた。タモリさんはこの言葉に踏み込んで言及しなかったが、今の時代の空気感をよく表していると、放送直後から話題となった。

 政治学者で東京大学の御厨貴(みくりやたかし)名誉教授は、岸田首相襲撃の第一報を聞いた時、「またか」と衝撃を受けたと振り返る。

「安倍元首相は参議院選挙、岸田首相は衆院補選と、いずれも政党の元党首や現党首が前面に出て国民に語りかける場で事件は起きています。このことは、戦後の日本が築き上げてきた民主主義を脅(おびや)かすものだと思います」

 社会が変わりつつある中、御厨名誉教授は、タモリさんが直感的に感じたであろう「新しい戦前」という言葉は理解できると話す。

「これまでだったら、政治に不満があったとしても、一線は越えませんでした。言葉で説得しようとしたはず。テロでその国の指導者を殺そうとはしませんでした。暴力で倒しても、自分の考えが実現できるわけはありません。そういう考えを戦後の日本の民主主義がつくりあげ、実践してきたからです。その一線を1年足らずの間に2度も越えたのは、社会が変わりつつあるという気がして、『新しい戦前』という言い方も成り立つと思います」

 100年前と現代──。昭和史研究者で、学習院大学前学長の井上寿一(とすかず)同大教授は、両者には共通点があると指摘する。

「いずれも政党政治の行き詰まりがあり、国民の意思が政治に反映されず政治が変わらないことへの閉塞感が根底に流れています」

 原敬が暗殺された4年後の1925年、政友会と憲政会(のち民政党)の二大政党制が成立する。国民は両政党が政策を競い合い、よりよい政策を出す側に投票したいと思っていた。だが、政党同士の党利党略を巡っていがみ合い、ネガティブキャンペーンによるつぶしあいが始まり、国民の間に政党不信が高まった。

「現代も、支持政党は世論調査で『支持政党なし』が常に上位に来ます。国民の大多数は政権交代を求めていますが、それに野党は応えられていません。政治の機能不全に対する不満を、比較的多数の国民は抱いていると思います」(井上教授)

 岸田首相を襲った容疑者は、動機など詳細は不明だが、現行の選挙制度や既成政党への不満を繰り返し主張。年齢などを理由に参院選に立候補できないのは不当だとして、国に損害賠償を求める訴訟を起こしていた。

 井上教授はさらに、100年前と現代で「社会に対する不安を国民は抱いている点も共通している」と言う。

 30年、世界恐慌の影響を受けた日本は昭和恐慌に陥り、深刻な経済状況を生み出した。農村は疲弊(ひへい)し人々は困窮するが、財閥や資本家は富を独占し、国民の不満は高まった。

「現代も、格差や貧困が広がり、原油高騰や円安による急激な物価高に賃上げが追いつかず、閉塞感が社会に充満しています」(井上教授)

(編集部・野村昌二)

※AERA 2023年5月22日号より抜粋

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