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「秋篠宮さまのときと比べても...」。愛子さまの被災地訪問、現地ルポしたジャーナリストが驚いた「厳重警備」の”深層”

吉原 康和(ジャーナリスト)
5/28(水) 07:00

5月18~19日、能登半島地震の被災地を視察するため石川県を初めて訪問された天皇、皇后両陛下の長女愛子さま。

「生活はいかがですか」

「どうぞお体を大切に」

膝をつき、被災者と同じ目線で優しく声を掛けられる姿に、「勇気をもらった」と感激する被災者。営業再開を目指す和倉温泉の旅館や祭りの復活、災害ボランティアなどの取り組みに耳を傾ける愛子さま。

行く先々の沿道には、愛子さまを一目見ようと大勢の人たちが集まり、「愛子さま!」という歓声が上がった。

一方で、被災地に広がる愛子さまの穏やかな笑顔とは裏腹に、「百人規模」ともいわれる厳重な警備態勢が敷かれていた。こうした体制には、近年の皇室の警備の変化、愛子さまの現在の皇室内での立場や存在感、そして「女性皇族」をめぐる議論の流れの変化も関係していそうだ。

現地で一体、何が起きていたのか。東京新聞で皇室取材にたずさわった、ジャーナリストの吉原康和氏がレポートする。

愛子さま(2025年1月)〔PHOTO〕Gettyimages

秋篠宮さま訪問時と比べても…

金沢市から北東へ約70キロ。5月18日午後、愛子さまの最初の視察先となった石川県七尾市の和倉温泉お祭り会館前。正午過ぎぐらいから、住民らが集まり始め、愛子さまの到着1時間前には50人前後の人だかりが出来ていた。

警備に当たる警察官が金属探知機を使った身体検査や手荷物検査を始め、荷物のある人はビニール袋に入れるように指示される。キャリーバッグなどの手荷物を持った観光客らは、お祭り会館前から500メートルほど離れた沿道に設けられた奉迎者スペースに誘導されていく。

その奉迎エリアの沿道も瞬く間に、数百人規模の人の長い列ができた。

夥(おびただ)しい数の警察官も道路沿い配置され、手荷物検査や行列の人員整理などに余念がない。警察官の左腕には「岐阜県警」の腕章が見てとれた。

「ずいぶん、物々しいですね」。奉迎者の一人が警察官に向かって話しかけると、ポロシャツにジーンズ姿の私服警察官は「私らは岐阜から来ましたが、九州から応援に来ている警察官もいます。隣県からの応援の警察官も含めて100人態勢で分担して警備に当たっていますので、ご協力をよろしくお願いします」と低姿勢に協力を要請する。

別の岐阜県警の警察官は「昨年4月、秋篠宮さまが輪島市を訪問された時も、警備の応援に行きましたよ。その時も、今回と同じような体制でした」と話すが、タクシーの運転手の話では「秋篠宮さまが輪島に訪れた時は、奉迎者の数もこれほど多くなかったし、規制も緩かった」という。

愛子さまの到着30分ぐらい前になると、5~10メートル間隔で奉迎者の前に立つ警察官が、奉迎者に向かって「4つのお願い」の呪文(じゅもん)を唱え始めた。4つとは、「おはなし」の四文字のそれぞれ頭文字を取って、「お(押)さない」「はし(走)りださない」「な(投)げない」「しゃ(車)道に出ない」。しばらくすると、「おはなしの『お』は、何でした?覚えていますか」などと問いかけてくる。そんな問答が愛子さま到着直前まで繰り返された。

14時40分過ぎ。黒のクラウンに続き、愛子さまを乗せた白のアルファードが現れた。車のスピードが落とされ、運転者席側の後部座席の窓を開けたまま、愛子さまがにっこりとほほ笑みながら、丁寧にお手振りを続けた。

「愛子さま!」という悲鳴にも似た声とともに、車はあっという間に通り過ぎていく。

愛子さまの乗ったアルファード
奉迎者に向かって手を振る愛子さま

翌日の5月19日朝、愛子さまの宿泊先のホテル内のロビーや周辺も、大勢の警察官でごった返していた。ホテルのロビーでは、宿泊者以外の奉迎者を、ホテルの外の沿道に誘導するなど、ホテル内での関係者以外のお出迎えを規制していた。

お出迎えやお見送りは沿道の規制されたエリアのみで、金属探知機による検査を受け、手荷物は配布された透明のビニール袋に入れて足元に置く。道路の反対側の街頭にも数人の警察官が配置され、監視の目を光らせる。

金沢駅周辺のホテルでの警備風景

3か所の奉迎エリアで警察の警備状況を垣間見た限り、すべての場所で同じような光景が繰り返されていた。

沿道の規制エリアでは、警察官は奉迎者とのコミュケーションを取りつつ、警備に協力してもらおうと低姿勢で臨んでいた。その一方で、不特定多数の人の往来がある駅や宿泊先のホテル、訪問先の沿道などにも夥しい数の警察官の姿が目立った。

従来からあった金属探知機を使った身体検査や手荷物検査などに加え、大きなバッグなどを持った観光客らは、警備のご対象である愛子さまの出発地点や到着地点から少し離れた規制エリアに移動させられていた。

また、宿泊先のホテルのロビーでのお出迎えも規制するなど、ピリピリとした雰囲気に包まれていた。警備の規模も、愛知県警や岐阜県警などの隣県からの応援部隊も含めて、どうやら「百人態勢」という話も、あながち誇張ではなかった。

それでは、愛子さまの被災地訪問が、なぜ、かくも厳重警備なのか。

大阪万博で起きた「事件」

一つには、2022年の安倍晋三元首相や2023年の岸田文雄前首相らの襲撃事件を契機に、皇室の警備が厳しくなってきた事情がある。安倍元首相の襲撃事件では、選挙遊説中の要人に不審者の接近を許したことが、警備当局に最大の課題として意識された。皇室も従来のソフト警備でいいのか、警備の在り方も一部見直された。

筆者はこれらの襲撃事件後の2024年5月下旬、私的旅行で奥日光を訪れた上皇ご夫妻を取材した時のことを思い出した。

東武線日光駅に到着したご夫妻が駅頭で出迎えの観光客らに手を振りながら、御料車に乗り込む際、警備に当たった警察官は、御料車側に背中を向け、視線は奉迎者側に目を光らせていた。ひと昔前なら、「警備のご対象者である皇族方に警察官がお尻を向けるとは何事か」という声も聞こえてきそうな変化であったが、安倍元首相の襲撃事件後、そんな声は聞かれなくなった。今回の奉迎者への対応でも、この方針はきちんと堅持されていた。

上皇ご夫妻(2023年1月)〔PHOTO〕Gettyimages

二つ目は、直近に起きた大阪万博を視察中の愛子さま周辺で起きた出来事との関連だ。

関係者によると、大阪・関西万博1日目の5月8日夕方、愛子さまは、一周およそ2キロに及ぶ「大屋根リング」を視察後、次の電力館へ移動中、外国人とみられる男3人、女1人の4人組のグループが愛子さまの後をついてきたという出来事があり、そのグループの一人が愛子さまに近づき、「韓国の伊(ユン)大統領が出した戒厳令について、どう思われますか」などと話しかけてきたという。愛子さまに危害はなかったが、万が一の場合を考えると、あってはならない「事態」だ。

被災地訪問の10日前にあったとされる大阪・関西万博の会場内での出来事と今回の被災地訪問で垣間見た厳重警備の因果関係は定かではない。元宮内庁幹部は「万博会場内と被災地では、自ずと警備の在り方も異なるので、一概に論じられない」と前置きした上で、「万博会場内で愛子さまのあとを付きまとうような事案があったのが事実であるならば、今回の警備にも影響を与えた可能性がある」と指摘する。

また、長らく皇室取材を担当してきた元皇室記者も「安倍元首相らの襲撃事件以降、皇室の警備も、ピリピリした雰囲気を感じる機会が多くなり、平成の時に比べて警備要員が増えているように思います。新型コロナ禍が明けたころだったと思いますが、両陛下が国立劇場を訪問された際、取材陣が初めて金属探知機を受けたことがありました」などと語った。

天皇皇后両陛下(2024年6月)〔PHOTO〕Gettyimages

皇室用語では、天皇の外出を「行幸(ぎょうこう)」、皇后や皇太后(現在は上皇后)、皇太子、同妃の外出を「行啓(ぎょうけい)」、天皇、皇后が一緒なら「行幸啓(ぎょうこうけい)」といい、一般皇族の外出は「お成(なり)」と呼ぶ。

天皇家の長女の内親王(ないしんのう)である愛子さまの地方訪問も「お成」という呼び方に変わりはない。皇族方のご身位に応じて警備の在り方も自ずと異なるが、愛子さまの今回の警備の規模は、今は空席である「皇太子級」と変わらないようにも思える。

与野党間での意見の分裂

こうした厳重警備も、愛子さまの存在感や注目度のアップと無関係ではないという見方もある。

折しも、愛子さまら女性皇族の結婚後の行方にも影響する皇室の皇族数の確保に向けた国会の与野党協議が大詰めを迎えている。

協議の論点は、(1)女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する(2)1947年まで皇族だった旧宮家の男系男子孫を養子として皇室に迎えるーの2案に絞られている。

最も現実的な案である(1)については、これまでの与野党協議で日本保守党を除く各党各派がほぼ同意しており、女性皇族が結婚後も皇室に残る案で合意が得られる方向にある。

女性皇族が結婚後に皇室に残る道が開けば、確かに愛子さまら女性皇族の存在は、これまで以上に重みを増すに違いない。しかし、与野党協議では、女性皇族の配偶者や子に皇族の身分を付与するか否かを巡り、依然として各党の意見は分かれたままだ。

この背景には、自民党などには、女性皇族の夫や子に皇族身分を与え、将来天皇に即位した場合、父方に天皇がいない「女系天皇」の誕生につながりかねないとの強い警戒感がある。野党第一党の立憲民主党は、家族一体で皇族とする案を検討するように求め、共産、社会民主党は「女性天皇・女系天皇」にも賛成している。

なかなか一致点が見いだせない中、読売新聞が5月15日付の朝刊一面でぶち上げた提言を巡り、保守派内でも賛否両論が巻き起こっている。

愛子さまのお成は「涙が出るほどうれしい」

これまでの男系男子継承の論調を大転換し、皇統の存続を最優先に、象徴天皇制の維持、女性宮家の創設、女性皇族の夫や子を皇族とするーの4項目を提言した。つまり、女性・女系天皇も容認する小泉純一郎内閣時代の有識者会議の案に近い。

読売の提言は、皇統の存続を最優先とした現実的な提案とも言えるが、自民党は5月21日、女性皇族の夫や子の身分を「皇族としない」とする党見解を確認した。

現在、参議院選挙前の決着をめざして、衆参両院正副議長の意見取りまとめがおこなわれているが、そのゆくえはどうなるのか。自民党と立憲民主党のあいだの溝は深く、またも先送りされる可能性も出てきた。

社会人2年目の愛子さまは今後も、両陛下と一緒に訪れる初めての沖縄訪問(6月4~5日)や初の外遊となるラオス訪問(11月)を控えるなど、多種多様な公務が待ち受けている。

通行人がほとんどいない閑散とした和倉温泉の停留所で七尾行きのバスを待つ60歳代の初老の男性が話しかけてきた。

「世間からすっかり忘れさられていたこの町に、愛子さまが来て下さった。涙が出るほどうれしい。政治は(女性天皇でもいいという)国民の声に耳を傾けていない。今度は、わしらが、夏の参院選で、考えを示す番ですな」

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