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兵庫・斎藤知事の「うそ八百」発言はパワハラ、140万円を不要に支出 知事を断罪する第三者委員会調査報告書を詳報

今西憲之
3/25(火) 16:00
厳しい調査報告書に斎藤氏はどのように対応するだろうか

「斎藤知事は、第三者委員会を『最後の砦』として期待していた様子だった。それが、百条委員会以上に厳しい結論になり、さらに追い込まれている」

 そう、こっそり耳打ちしてくれたのは、兵庫県の幹部だ。

 兵庫県の斎藤元彦知事らが昨年3月に、パワハラや「おねだり」など様々な疑惑を内部告発された問題で、県が設けた第三者調査委員会が3月19日に調査報告書を公表した。斎藤氏のパワハラ行為については、内部告発や職員アンケートで寄せられた情報にあった16件について調査し、10件を「パワハラ」と認定。これ以外に、斎藤氏が記者会見で元県民局長の内部告発について、「うそ八百」「公務員失格」などと非難したことも、「パワハラに該当する」と断罪した。

■パワハラ認定について見解を変えた斎藤氏

 斎藤氏は、告発されたパワハラなどの疑惑や、元県民局長の内部告発への対応について県議会の百条委員会から問われていたとき、

「パワハラかどうかは私が判定するより、百条委員会とか第三者委員会が判定するものだと思います」

 などと語っていた。しかし、次第に、

「パワハラを受けた当事者が、民事などで訴えて司法が判断すること」

 と見解を大きく変えていた。

 3月5日に県議会が百条委員会のまとめた調査報告書を可決したあとの記者会見で、調査報告書について見解を問われた斎藤氏は、

「一定の見解が示されたということは、しっかり受け止める」

 と言いながらも、報告書が斎藤氏のパワハラなどの疑惑を「一定の事実」と認めたことについては、

「パワハラかどうかというのは、司法の場が認定すること」

 と認めなかった。また、報告書が、告発者である元県民局長への対応を「公益通報者保護法違反の可能性が高い」と認定したことについては、

「可能性というからには他の可能性もあるということだと思います」

 と言い放った。

 今回は県が委託した弁護士による第三者調査委員会の報告書だ。斎藤氏も真摯に受け止めざるを得ないのではないか。

 斎藤氏はこの第三者調査委員会の調査報告書について問われ、

「分量が多く、読ませていただいている」
「県議会閉会(3月26日)以後に、県としてなんらかの見解を説明することになると思う」

 という旨を話している。

「空飛ぶクルマ」に試乗する斎藤知事

■「聞いていない」と激怒し深夜にチャット

 今回の第三者調査委員会の報告書で認定された斎藤氏の「パワハラ」には次のようなものがある。

(パワハラ事例1)
 23年7月から、県立美術館がメンテナンスのため休館することになった。それは美術館のリーフレットなどに記され、斎藤氏のもとにも届いていた。だが、新聞の電子版の記事でそれを知った斎藤氏は激怒し、深夜1時前に担当職員らにチャットを送って、「長期休暇するなんて一言も聞いていない」「こんなことでは県立美術館への予算措置はできません」などと事情を聴くこともなく怒りをぶつけた。

(パワハラ事例2)
 大阪府が関西万博の目玉としたいと力を込めていた「空飛ぶクルマ」について、兵庫県は産業労働部が中心となり、「空飛ぶクルマ」のビジネス展開を目指す事業者に補助金を交付する政策を検討。23年1月に民間事業者と締結式が行われることになったが、それを事前に新聞が報道した。斎藤氏は激怒し、「空クルは知事直轄」「勝手にやるな」などと担当職員を厳しく𠮟りつけた。だが、産業労働部は前年から何度も知事に説明しようとしていたのに、斎藤氏が多忙として応じていなかった。また、報道は県議会で議論されていたことが中心で、産業労働部が新しく伝えた内容ではなかった。

(パワハラ事例3)
 斎藤氏が知事就任から約1か月後、兵庫県の事業について新聞報道があったが、斎藤氏は自分が関与していないことが報道されて立腹し、担当部署の局長と課長を知事室に呼び、「県として意思決定していないことを先に出すのはよくない。許せない」と机をたたいて叱責。机をドンドンと叩く音は隣の秘書室にまで聞こえた。だが、この事業は前知事が進めていたことで、県として意思決定していないことではなかった。

 一方で、片山安孝副知事(当時)との協議中に付箋を投げつけた行為や、斎藤氏が「オレは知事だぞ」などとよく発言することについては、パワハラとまでは認定されなかった。ただ、報告書は「オレは知事だぞ」などの発言について、こう記している。

〈その趣旨の発言を受けたという職員は複数存する。職員にとって、自身が知事であることをことさらに強調する発言は、それ以上反論できなくなるし、意見も述べられなくなる。実際に適切を欠く場面が存在した可能性もあった〉

兵庫県内の小中学生に配布されているココロンカード。裏面には斎藤氏の名前が記載されている(兵庫県教育委員会のサイトから)

■前知事の名前のカードを全部差し替え

 また、これもパワハラとは認定されなかったが、140万円の税金が不要に使われたと認定されたのが、「ココロンカード」問題だ。報告書によると、次のような内容だ。

 兵庫県では小中学生を対象に、提示すれば博物館などの協力施設を無料で利用できる「ココロンカード」を作成している。小学校1年生のときに学校を通じ配布され、小・中9年間、同じカードを使う運用となっている。だが、斎藤氏は、すでに配布されたカードの県知事名が前の知事になっていることに気づき、すでに発行されているカードも含めて全学年分のカードを自分の名前の入ったカードに差し替えさせた。このため、必要性がなく、県民にとって特に支障もない理由で、140万円が支出された。

 元検事の落合洋司弁護士は、この「ココロンカード」問題について、こう指摘する。

「優勝パレードの問題と比べれば金額は少ないが、140万円という税金を不要に支出したとして、背任、任務違背になりかねない」

 また、百条委員会のメンバーだった丸尾牧県議は、こう話す。

「斎藤知事のパワハラ体質を受け、職員が過剰な忖度、配慮をした結果、140万円もの税金が無駄に支出されたことを第三者委員会が認めたことは大きい。自分の名前が入っていないというだけで税金を無駄に使ったことは、あるまじきことだ」

■元県民局長に関する発言「極めて不適切」

 第三者調査委員会が最も重要視したのは、元県民局長の公益通報に対する県の対応だ。内部告発した内容の多くについて真実である、あるいは真実と信じるに足りる相当な理由(真実相当性)があると認め、報告書で県の対応を違法、不当と断じた。

 斎藤氏は昨年3月27日の記者会見で、元県民局長の告発文書について、「うそ八百」「公務員失格」と否定するとともに、次のように発言していた。

「本人(元県民局長)も認めていますが、(元県民局長が作成した告発文書は)事実無根の内容が多々含まれている内容の文章」
「ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めている」

 だが、報告書は、こう記す。

〈元県民局長は、事実無根の内容の文章を作ったと認めたことはない。調査も十分なされていない段階で、元県民局長が認めてもいないのに、事実でない内容の文章を作成したことを本人が認めている旨の発言をしたことは、極めて不適切である。発言は直後に撤回をすべきであった〉

〈(告発)文書には数多くの真実と真実相当性のある事項が含まれており、「うそ八百」として無視することのできないもの。むしろ、県政に対する重要な指摘をも含むものと認められた〉

〈(知事の)発言は元県民局長に精神的苦痛を与えるものであって、職員一般を委縮させ、勤務環境を悪化させるものであるから、パワハラに該当する〉

記者会見する第三者調査委員会の藤本委員長

■「裁判に訴えた件だけがパワハラではない」

 報告書を公表後、記者会見した弁護士で元裁判官の藤本久俊・第三者調査委員会委員長は、こう話した。

「問題の発端は知事が『うそ八百』『公務員失格』と発言したことにあると思う。調査未了の段階で、公に知らしめる必要はどこにもなかったと思う」

 また、斎藤氏がパワハラは「司法が判断すること」と言っていることについて、藤本氏はこう話した。

「裁判に訴えられた件だけがパワハラかというと、それは違うのではないか」

■斎藤氏の対応次第で再び不信任決議?

 今後の注目は県議会と第三者調査委員会から、違法・不当な行為があったと認定された斎藤知事の進退だ。次の県議会は6月。県議会は再度、不信任決議案などで知事を追い詰めるのだろうか。

 丸尾県議はこう話す。

「不信任決議案を出すかどうかは、2つの報告書に対する斎藤知事の対応次第でしょう。県民も2つの報告書によって、斎藤知事が県政を担うのは問題があることをはっきり認識したはず。住民運動、リコールや住民監査請求という声も聞きます。リコールはかなりハードルが高いが、住民監査請求ならできるという感じはあります。県議会の対応も、県民の動きによって変わってくるでしょう」

 第三者調査委員会の藤本氏は、会見の最後にこう言っていた。

「県当局が、あとはご自身で考えて、自浄力を発揮してください」

 一貫して、これまでの対応は間違っていなかったと主張してきた斎藤氏は、自らの態度を顧みて、改めることができるだろうか。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

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