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これまで行われてきたプラセボ効果に関する研究は、ほとんどが小規模のものだったが、アメリカ・ダートマス大学心理脳科学科、トア・ウェイジャー氏らの研究グループは、多角的にプラセボ効果を発生させる神経学的なメカニズムの解明に挑んだ。
そこから判明したのは、プラセボ効果が感覚処理や認知処理など、複数の脳領域で鎮痛作用をもたらしていたということだ。
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『Nature Communications』(3月2日付)に掲載された研究は、参加者1人1人の脳の全体画像を調査したものとしては、これまでで最大の分析である。
分析対象となったのは、合計600人の健康な参加者を調べた20本の神経画像研究だ。
これらの研究の参加者たちは、検査時に痛みが和らいだと報告していた。しかし今回の研究が突き止めようとしたのは、感じ方の問題ではなく、脳がプラセボ(偽薬)に対して意味のある反応をしているのかどうかだった。
はたしてプラセボは、痛みが作り出されるメカニズム自体に作用しているのか? それともただ痛みに対する認識が変わっているだけなのか? そもそもその痛みは本当に和らいでいるのだろうか?
また、痛みを感じるプロセスの初期段階で重要な「体性感覚皮質」、動機付けに大切な役割を果たしており、痛みを感じたときにそれを行動に結びつける「大脳基底核」にも影響が見られた。
プラセボは痛みの伝達経路に作用する
こうした発見は、プラセボによって「後部島皮質」の活動が抑制されることを明らかにしているという。
ここは痛みを最初の段階で作り出している領域の1つで、皮質の中では刺激から痛みを作り出せる唯一の場所である。
視床から後部島皮質、これは痛みの主な伝達経路だ。つまりプラセボは、痛みが作られる経路に作用しているということになる。
前島前皮質は、痛みを感じた状況を把握し、今痛いという思考を維持するところだ。ここが活性化すると、痛みを防ぐオピオイドを放出させる経路が開き、痛みシグナルが修正される。
だが前頭前皮質の活性化パターンは少々変わっているようだ。というのも、常に一貫して活発になる領域が見当たらなかったからだ。
このようなばらつきは、自己調整に関連する領域のそれと似ているという。そうした領域では、思考や心の状態によって、異なる作用が発生することが知られている。
プラセボ効果には、この類の処理が複数まざっている可能性が高い。そして、それはプラセボが与えられた状況や処方された人の性質などに応じて変化するものと考えられるようだ。
プラセボ効果は、感覚・侵害プロセス、あるいは認知・感情プロセスのどちらか一方によるものではなく、プラセボ投与時の状況や個人的な要因によって変化しうる、さまざまなメカニズムが組み合わさっている可能性が高いでしょう
プラセボに本物の薬顔負けの効果が期待できるのは、いくつもの脳領域とメカニズムが反応しているからであるようだ。
その効果は、うまく使うことができれば高い利用価値があるし、ときに「神秘体験」すら味わうことができるほど強力なものだ。
References:New study gives the most detailed look yet at the neuroscience of placebo effects -- ScienceDaily/ written by hiroching / edited by parumo
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