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科学者が断言。シャンプーに「経皮毒」なんて存在しない理由

くられ『アリエナイ科学メルマ』
10/17(水) 01:58

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市販のシャンプーに含まれているとされる「経皮毒」なる毒性の成分を表す言葉。しかし、今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では、著者で科学者のくられさんが、「経皮毒」という存在自体がオカルトの類であり、現在は「悪の成分」とされていた物質を使用している製品がほぼ存在していないと断言。一部の人たちに信じられてきたシャンプーの「毒性」について、科学的に立証しています。

「経皮毒」という言葉

シャンプー。頭皮を洗う界面活性剤だが、その種類は様々、そして、纏わる都市伝説も様々です。薬局で迷っても、医薬品に関してはエキスパートの薬剤師もシャンプーの成分まで造指の深い人はさすがにおらず「肌に合った物を選んでください」的な回答しか得られず、どのように選べば良いのかはサッパリ…という経験がある人も多いことでしょう。故に、拙著の『薬局で買うべき薬 買ってはいけない薬』(ディスカバー21)でも、詳しく取り上げ、その成分の選び方などを乗せたところ非常に大きな反響がありました。

まともに語る人が少ない世界だからこそのオカルトがまかり通りやすいようで、経皮毒などといって、シャンプーの成分が内臓に蓄積するだの、免疫疾患を起こすだの…という話までまかり通っており、医者や薬剤師の中にもウッカリ信じてしまっている人までいる次第。

今回は、そうしたシャンプーにまつわる都市伝説、特に「経皮毒」に関して、科学の目、つまり配合成分から冷静に判断していきたいと思います。成分表示を見て、その商品が何かがわかれば、ニセ科学やオカルトも正体見えたり…というわけなのです。シャンプーオカルト一刀両断、しばしお付き合いください。

シャンプーが内臓に溜まるという説は本当なのか?

まずは、シャンプーの話題になると必ず出てくる「経皮毒」という言葉。この言葉は、東京薬科大博士課程を終了した竹内久米司という薬学博士が作った言葉であり、氏の書籍で提示された、界面活性剤の「毒性」を説明したときに使われています

氏の説は「シャンプーの中に含まれるプロピレングリコールやラウリル硫酸ナトリウムなどが、皮膚組織を容易に突破し、体内に侵入。それらが肝臓や子宮に蓄積し、アトピーなどのアレルギー病や不妊症、癌などの原因に…」という理論です。

多くの人はシャンプーごときで体が癌になる…とまでは信じなくても、実際に合成洗剤を使って食器を洗っていると、酷い手荒れになったり、シャンプーが合わなくて痒みやかぶれを起こしたりした経験を持っているので、そういう経験の上に、薬学博士という肩書きが後押しし信じてしまいそうです。一旦信じると、もうあとは「経皮毒フリー」の商品を探し求めてしまうことでしょう。

実際に、ネットで「経皮毒」について検索すると、多くの本の他、経皮毒の有害性を説くサイトを多く見つけることができます。そしてそれらの大半は、「経皮毒フリー」を唄う、高額なシャンプーの販売サイトです。

本当に「経皮毒」なる毒物がシャンプーには含まれていて、そうしたショップは経皮毒に侵されない、自然派のとても良い商品を売っている善意の業者なのでしょうか? 市販のシャンプーの肩を持つ者は御用学者なのでしょうか(笑)。しかも博士号まで持つ人が言うくらいだし、信じてしまいそうです…本当に正しいのでしょうか?

さて、この理論のおかしい点を見つけていくには、「ウソだ」「根拠がない」などと頭から否定せず、シャンプーの成分から考えていけば見えてくるのです。シャンプーの成分は商品の裏を見れば乗っています。現在は平成18年の薬事法改正以降、医薬部外品も、全成分を商品ラベルに記載しなくてはならなくなっており、全成分が配合量の多い順番で載っています。

見ると、ラウレス硫酸Naや、スルホン酸なんとか、ココイルメチルタウリン、コカミドプロピルベダイン、なんたらTEA等々…聞いたことも見たことも無い薬品の名前がズラリと並んで、流石にこんなたくさんの化学物質を頭皮につけても大丈夫なのか…と、思う人もいるかもしれません。

しかし、これらは、シャンプーという商品を根本的に見ていくとどれも商品の安定性や機能性のために配合されているもので、それらの成分名から働きを考えれば肌荒れやカブレもちゃんと理由が見えてくるわけです。

一番の悪役成分は、実はもう使われていない

まず、一番最初に、「経皮毒」の本やサイトで最も悪者成分として紹介されている「ラウリル硫酸ナトリウム」について話を進めていきましょう。ラウリル硫酸ナトリウムは非常に強力な界面活性剤であり、強力な脱脂作用があります。ネズミの毛をバリカンで刈り取り、ラウリル硫酸ナトリウムを塗布したネズミの大半は糜爛(びらん・ただれること)や脱毛、酷い炎症を起こすことが知られており、経皮毒のサンプルとしてよく紹介されています。実際に人間の肌にも洗い落としがあると、かぶれや炎症を起こすことが多く、そうしたことから、悪の成分として代表的に紹介されています。

しかし、実はこの成分が配合された商品はほとんど使われていません。一部の商品では、塩を取り替えた、ラウリル硫酸アンモニウムという形で使っているメーカーもごく一部ありますが、ナトリウム塩で商品を出しているメーカーはほぼありません

現在は、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに、改良された皮膚刺激性の低いラウレス硫酸ナトリウムを使うのが定石となっています。名前は似ていますが、皮膚への刺激はかなり低いです。こうした成分の変化さえも無視して紹介している本やウェブサイトが氾濫している時点で、情報の信憑性が怪しくなってきます。

ラウリル硫酸ナトリウだろうがラウレス硫酸ナトリウムであっても、理由は後述しますが皮膚から体内に侵入するということはあり得ません。ましてや発がん性といったとんでもない毒性のあるものは、さすがに厚労省が黙っていません(厳密にはエリート研究者揃いの厚労省の外郭研究機関が見過ごさないからです)。

濃度と浸透性

シャンプーの成分は経皮毒と主張するカルトの言い分を紐解いていきます。まず、皮膚から浸透し血中に入るという説。まず、シャンプーに含まれる界面活性剤の成分は、そもそもいいとこ2、3%であるということが大切です。

ずらずらと薬品名が並んで不気味に感じますが98%以上は「水」であるということです。薬品の肌に与える影響は高濃度であるほど濃厚です。これは上記のネズミの実験が如何にぶっとんだものかを示しています。故にシャンプーはあんな価格で販売しても儲けが出るわけで、低濃度であるというのが大事なところです。

この程度の濃度の界面活性剤が、皮膚の角質層をこじ開け表皮から真皮にまで浸透し、その下にある毛細血管から入り込むことなんてあり得るのでしょうか。そしてそれらが肝臓や子宮に蓄積するということはあり得るのでしょうか?羊水がシャンプーの匂いになるんじゃ~とかありえるんでしょうかw

まず、シャンプーに含まれる界面活性剤が頭皮を貫通して血中に入るとします。「経皮毒」の本によると界面活性剤は油脂の一種である細胞膜を容易に貫通し…とありますが、何故、頭に塗ったものが、わざわざ肝臓に溜まるのでしょう。頭皮から血管に入ったら、真っ先に油(リン脂質)の塊である脳に大量に流入し、次々に脳細胞を乳化して破壊していくはずです。しかし脳についての言及はありません。あくまで肝臓に向かうようで、その理由は説明されておりません。謎ですw

次に、そもそも、「経皮毒は蓄積されて毒性を及ぼす、または発がん性物質である」という点です。

まず、体内に蓄積されたり、発がん性のあるものは、化粧品材料として認可を受けることができません。仮に、少しでも疑わしい点が見つかった場合、即座に審査実験が行われ、その安全性を再検討する法整備を含めたシステムが機能しています。また仮に問題が見つかったら、メーカーも自主回収なんて経費の無駄は避けたいので、社内の研究室で徹底的に実験を行っています

近年では、平成22年の小麦加水分解物を配合した「茶のしずく石鹸」での小麦アレルギーによるメーカーによる回収指示や、平成15年のコウジから得られたコウジ酸にマウスでの実験で長期高濃度で使用した場合、腫瘍形成の恐れあり…と使用量の見直しが行われたりしています。マウスの実験は、1~3%もの分量を食料に混ぜて55週間の投与を行い「疑わしい」と言えるレベルのものであり、それでもこうした審査がなされて、常日頃から是正されているという点です。

一般薬局で売られている商品の大半は、問題なく使われて20年以上の実績のある成分が大半であり、それらで構成された商品が本当に「経皮毒」として成り立つには、国がひっくり返るくらいの証拠が必要であるということです。

「経皮毒」の提唱者が言う通りなのであれば、氏の訴えが本当であれば、多くの研究機関や学会が黙っていないでしょう。しかしもう十数年も見向きもされていません。本が売れ、一部の悪質業者にとって都合の良い話が一人歩きしているのが実際であり、その実体は無いと判断するのが「科学的」でしょう。

こうした国の厳しいチェック能力のおかげで、平成になってからは、化粧品に配合可能な成分(や指定濃度の範囲では)著しい発がん性のある成分は出ておらず。そもそもそんな毒性があるものは認められず、長年使われている成分が見過ごされていることなんてことはあり得ないからです。

そしてシャンプーの成分の全ては、こうした試験をパスしたもので作られているので、体に蓄積することも、毒性を発揮することも無いといってしまっても良いわけです。自分のような胡散臭い輩が如何に「インチキだ」と言っても信憑性は怪しいモノですが(笑)。全て、日本の厳しすぎるくらいの審査をパスした成分で構成されている…となればもっと胸を張って「経皮毒はニセ科学」と言えるわけです。だって厚労省を唸らせるだけの研究結果を発表してませんもの。

炎症と経皮毒は無関係

それでもシャンプーで炎症が起きるのは経皮毒があるからでしょ!と言う人もいるでしょう。それは脱脂力と皮脂に関係が深く、体にラウリル硫酸ナトリウムが浸透して悪さをしているのではなく、脱脂されたことにより、皮膚が正常な代謝を行うことが出来なくなって、炎症を起こしているだけです。

体に蓄積されたり、薬剤による刺激で炎症が起きているものを「経皮毒」と論点をすり替えて一括で考えてしまうことが問題というか、そもそもこの造語を提唱してるインチキの本質です。

肌の質や皮脂の分泌量というのは、睡眠や食生活などの生活リズム、年齢によって刻々と変わります。毎日使っていた洗顔料だと顔がピリピリして、セッケンやお湯洗いに変えた…なんて経験がある人は多いでしょう。つまり、顔の皮脂が変わるのと同じで頭皮の皮脂の量も変わり、または、体質によっては、一部の成分が炎症を起こすこともありますが、それらは全て、皮膚表面で起こる反応であり、シャンプーを変えたり止めれば収まる話です。経皮毒とは関係のない話です。

皮膚の保湿はスキンケアでは重要なファクターの1つです。女性が毎日化粧水を付けているのは、ある程度の年齢からは、皮脂が戻るまでに時間がかかるようになるため、風呂上がりなどのバリア機能が下がったときにつけておくとよい…というわけです。

同様に頭皮の過剰な脱脂は頭皮にダメージとなると言えます。故に、安いシャンプーの多くに含まれる界面活性剤は、低刺激になっているとはいえ、大して汚れることのない現代人にはそれでも脱脂しすぎな場合が多いのです。その場合は、脱脂力の低い(洗浄力も低い)アミノ酸系シャンプーなどに変えるか、シャンプーを使うのは2、3日に1回にして、それ以外はお湯で流すだけにする…などの個人的な対応で十分になんとかなる話です。

簡単に解決できる問題を「経皮毒があるから」にすり替え、ぼったくり商品を買わせる……ここまでが経皮毒ビジネスの内幕です。

経皮毒を軸に、多くのシャンプーは毒…と称して、高額なシャンプーを売る業者の中には措置命令や業務停止命令を受けている会社がゴロゴロしています。そうしたシャンプーも成分を見ると、ただのアミノ酸系シャンプーであったり、何千円、何万円もする成分は含まれていません。いいとこ1ボトル500円くらいが妥当な成分です。そして、経皮毒という不安を煽り、マルチ商法を駆使して、「体に優しい自然派シャンプー」を売りつけるわけです。

結論としては「経皮毒」、この言葉を見たら、それ以下に書かれていることは信用しない。

悪質商法を見逃さないこれからのリテラシーの1つとして定着させていくことが大事なのではないでしょうか。

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image by: Shutterstock.com

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